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エピソード⑨
二人が魔女アリアーヌの元に来てから半年が経った。
その間も、ウィルフレッドが心を開く事はなく……。
「そろそろ良いかもしれんな?」
魔女アリアーヌからジレーネは、一応の合格、つまりは一人前の魔女として認められた。
曰く。
「この短期間で、よくぞここまで習得したものよ。お主の才である、誇れ」
率直にジレーネは嬉しいと思った。そして、ある決意をしていた。その想いをウィルフレッドと魔女アリアーヌに伝える。
「わたくし、復讐の旅に出たいと思います。一人前と認めていただけましたが、修行も積みたい。ですので、ウィルフレッド、わたくしと共に旅をして下さらない? そして魔女アリアーヌ様、お世話になりました」
一方的である事も我儘である事も充分理解している。それでも、どうしても復讐をしっかりと果たすためにも修行を込めての旅に出たいと思ったのだ。
静かに聞いていたウィルフレッドが口を開いた。
「ジレーネ様のご意向に従います」
「ありがとう、ウィルフレッド」
二人のやり取りを見守っていた魔女アリアーヌは、微笑む。
「では、我からプレゼントをやろうかの」
そう告げると、魔女アリアーヌが杖を振るう。現れたのは一匹の灰色の狼だった。
「この子は?」
「ジレーネ、お主の使い魔だ。可愛がってやるのだぞ? 騎士よ、お主もな?」
「ジレーネ様のモノであるのでしたら、勿論です」
相変わらずの無表情で答えるウィルフレッドに、魔女アリアーヌは慣れたように微笑む。それにジレーネの心が少しざわついた。
「ジレーネよ、渋い顔しておる場合か。旅立ちの準備は出来ているのか?」
「えぇ、わたくしは。ですがウィルフレッドがまだだと思いますので、待ちますわ」
「でしたら、急ぎ準備してまいります」
ウィルフレッドが準備のため借りている部屋へと向かって行く。その後ろ姿はいつもと変わらずで、それが安心感もありつつ、変わらないままなのかと不安にもなる。このままの関係性が続くのかと――。
****
数十分後。
ウィルフレッドが準備を終えて、魔女アリアーヌとジレーネが待機している庭に出て来た。彼の服装は騎士のものではないが、腰に挿した剣の彫刻はジレーネにとって懐かしいものであった。
「その剣、大切にしてくれているのね? 嬉しいですわよ」
「これ以外に、武器がありませんから」
あっさりと答えるウィルフレッドに、またしてもジレーネの心がざわつく。半年間も共に過ごしたというのに、いまだに彼の事を何も知らない。
生まれはどこで、家族はどうしたのか?
恋人はいるのか?
大切にしているものはなんなのか?
好きな物は? 嫌いなものは?
なにもかもわからない。
それがジレーネにとって寂しくて、知りたい事だった――。
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