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エピソード⑩
「それでは、本当にありがとうございました。お世話になりました」
ジレーネが丁寧に魔女アリアーヌに向けて、別れの挨拶をした。魔女アリアーヌは微笑むと、ジレーネとウィルフレッドに向けて手を振る。
名残り惜しみながら、二人は歩き出した。
ちなみにジレーネの服装は、動きやすいようにスリッドが入った黒のシンプルなドレスであり、ウィルフレッドは白いシャツに黒のジャケットとスラックスとブーツ姿だ。
二人揃って黒を基調とした衣服にしたのには理由がある。
――失った故郷への弔いだ。
もっとも、ウィルフレッドはジレーネに合わせただけとの事だったが。
それでも嬉しいと感じたジレーネは、少しだけ彼との距離を近づける。歩く速度も、ウィルフレッドはジレーネに合わせてくれているのだ。
(こういうところは、紳士なのよね。……もっと知りたいですわ)
少しでも期待してしまう自分と葛藤しながら、ジレーネは魔女としての一歩を踏み出すのだった。
****
魔女アリアーヌのもとを離れて三日。
二人は、山の方へ向かっていた。別ルートから向かう事にしたのだ。
ジレーネの元婚約者であり、仇であるフレドリクの国ケイオス帝国へと……。
この山は年中暑い事、そして野生の魔物達が数多生息している事で有名だ。
あえてこのルートを選んだのは、魔女としての腕を実戦であげるためもあるが、人目になるべく触れないためだ。
(それに、亡国の皇女が魔女になったなんて知られたら、ウィルフレッドを危険にさらす事になってしまいますわ)
おそらく、ウィルフレッドもそこは考えているであろう。
何故なら、彼はこのルートで行くことを否定しなかったからだ。
(危険はお互い承知という事ですわね)
視線を下に向ければ、魔女アリアーヌから贈られた灰色の狼がジレーネの傍にいる。
この狼に名をつけた。
――リヒト。
自分達の旅路に、光を灯してくれるようにという願いをこめてつけたのだ。
(三人で参りましょう。旅の目的が、例え復讐であったとしても……)
山への入り口に来た所で、不穏な気配を察知した。魔物達のものだろうとジレーネは思った。
誰も立ち入る事のない、そんな山からの不穏な気配と漂う妖気。
間違いなく、魔物達だ。
だからこそ、気を引き締め直す。
「ウィルフレッド、リヒト。よろしくて?」
「無論です。ジレーネ様」
「わぉーん!」
意志を確認してから、先頭をリヒトが行く。それに続きながら、ジレーネとウィルフレッドは山へ入って行くのだった。
全ては――復讐のために。
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