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エピソード⑪
山の中は、昼間だというのに真っ暗だ。
「流石、人が立ち入らないだけありますわね」
「ジレーネ様、お気を付けを」
ウィルフレッドがさりげなくエスコートしてくれる事に、嬉しさを感じる自分の心に蓋をする。
今……この想いは封印するべきだと、思ったからだ。
三人で道なき道を進む。暗闇を、ジレーネが魔法で照らす。包み込むような優しい光。ジレーネが覚えた魔法の中で、一番好きな魔法だ。
(温かい光……この光が照らす先こそ、我が祖国……)
ファータ皇国は今頃影も形も無くなっているだろう。攻め入られた国の末路は、そういうものだ。
名も姿も失ったであろう祖国を想いながら、岩や木々の合間を縫って進んで行く。
ふと、気配を感じた。
おそらくは……魔物達だろう。
「ウィルフレッド! 行きますわよ!」
「はい、ジレーネ様」
ジレーネが杖を構え、ウィルフレッドが剣を鞘から抜く。攻撃体勢へと入った二人に合わせて、リヒトが遠吠えを上げる。
現れたのは、巨体の大鬼……オーガだった。
しかも複数体いる。
それらが攻撃を仕掛ける前に、ジレーネが浮遊魔法で宙に舞い、杖を向け、攻撃魔法を放つ。
雨のように槍を降らせる中、それに合わせてウィルフレッドが動き、オーガ達を斬り裂いて行く。それをリヒトが援護するように、口から青白い弾を吐き出し、攻撃する。
三人での連携は完璧で、オーガ達を次々と倒して行く。
あっという間に殲滅されたオーガ達に視線をやる事なく、ジレーネが地面に着地する。
既にウィルフレッドとリヒトが待機しており、ジレーネを迎える。
「お待たせしましたわ。それでは、先に行きましょうか」
「承知致しました、ジレーネ様」
「わおーん!!」
暗い道を警戒しながらも、怯える事なく進んで行く。魔女アリアーヌから、事前に聞いていた。
――この山にはとてつもなく恐ろしい魔物が巣くっていると。
故に、オーガ如きに怯んで等いられないのだ。
(わたくしの予想ですけれど、魔女アリアーヌ様が仰っていた魔物……脅威ですわ)
復讐のためには避けて通れない相手だ。ウィルフレッドも理解しているんだろう、彼の目つきはいつも以上に鋭い。
(ウィルフレッド……貴方にも、ファータ皇国への想いがあるのでして? それとも……)
何も教えてくれない彼。
それでも、信用しているのはきっと……。
ジレーネは、再度芽生えて来た想いをしまい込む。そして、先を見据えて動く。
何日かかるだろうか? そう思いながらも、ジレーネの復讐の念が消える事はない――。
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