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エピソード⑬
山に立ち入り、初めての夜。
闇が濃くなる中、結界の中だけが明るく暖かい。
その中で、ジレーネとウィルフレッドは食事を摂っていた。もっとも、話題を振っても会話が続かないので無言だが。
(本当に必要最低限しか、会話してくれないのですわね……)
「ウィルフレッド、スープの味はどうでして?」
「美味しいです」
一言だけ呟くように言うと、また沈黙が訪れる。
魔女アリアーヌの元にいた時は、彼女のおかげで会話が成立していた。
だが、ウィルフレッドとジレーネだけではどうにもならない。
(リヒトがいてくれていますけれど、会話は出来ませんものね。はぁ、どうしたら良いのかしら?)
そんなジレーネの心中を察してか、リヒトが寄って来て座り込む。
寄り添ってくれている感覚がして、ジレーネが微笑むとリヒトは嬉しそうに尻尾を振った。
もっとも、それに関してウィルフレッドが口を挟む事はなかったが。
こうして、初日の夜は過ぎて行った。
****
翌早朝。
最初に目を覚ましたのは、ウィルフレッドだったようだ。
ジレーネが目を覚ましてテントの中から出ると、彼は着替え終えて剣の手入れをしていた。
「おはよう、ウィルフレッド。早いですわね?」
「おはようございます、ジレーネ様。普段の慣れでございます」
短く答えると、彼はジレーネから視線を外して剣へと向き直る。相変わらずの態度に、ジレーネはため息を吐くしかなかった。
そこへリヒトが現れて。二人の間を行き来する。何かを訴えるような仕草に、二人は顔を見合わせた。
警戒心をあげると、二人は移動出来るように素早く片づけを始めた。
もっとも、テント等の大物は慣れているウィルフレッドがほぼ一人でやってしまったが。
ジレーネは、張っている結界の確認や小物の片づけをやり、準備を整えた二人と一匹が揃うとジレーネが結界を解く。
途端、遮断されていた魔物達の気配を感じる。
「準備も装備もよろしいでしょう。先を急ぎます」
「承知致しました。先導はお任せを」
昨日と変わらない編成で、暗い山道を行く。気のせいではなく、魔物の気配と殺気が強くなっている。
これから先、より強い魔物と遭遇する確率が高いだろう。
ジレーネは気合を入れ直すと、ウィルフレッドの後に続く。隣をリヒトがジレーネのペースに合わせて歩く。
その姿が愛おしいと同時に、ウィルフレッドにも少しは愛嬌があれば良いのにとも思ってしまう。
(わたくしは、本当に……彼を知りたいですのに。あぁ、もどかしいですわ)
この想いの果てはどこなのか? それは誰にもわからない。
言えるのは、このまま変わらない関係等……無いという事だ。
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