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エピソード②
翌日早朝。
またもウィルフレッドに抱えられて、ジレーネは移動する事になった。
(これもそれも、このドレスのせいですわ!)
自身の服装が憎い。朝起きた時にウィルフレッドに稽古を頼んだのだが、今の服装では無理だと告げられた。
その上、まだ追手が来る可能性を考慮して、なるべく離れた土地を目指す事になったのだ。
どんどん故郷から離れて行かなければならない事が、悔しくて仕方ない。
だが、今は耐えるしかない。生きなければ、復讐すらできないのだから。
****
離れて、離れて。
辺境の地まで来たところで、ようやくウィルフレッドがジレーネを降ろした。
見た事がない程寂れた土地に、一軒の家がある。木造のこじんまりとした小さな家だが、そこから人が出て来た。
まるで、二人が来るのを待っていたかのように。
「待っていたぞ、亡国の皇女と騎士よ。我は魔女と呼ばれる存在である」
そう言って声をかけて来た年齢不詳の黒いシンプルなドレスを来た女性は静かに名乗った。
「我が名をアリアーヌ。主らの願いに応えてやっても……良いぞ?」
この世界においての魔女は、人の理から外れた存在だ。そのため畏怖され、忌み嫌われている。その存在を前に、ジレーネが困惑しているとウィルフレッドが静かに口を開いた。
「魔女、アリアーヌよ。しばしここに滞在させて頂きたい」
「ほう? なにゆえか?」
「ここにいらっしゃるジレーネ様の願いを叶えるために」
そう言われた魔女アリアーヌが、ジレーネを見つめる。ピンクブロンドの髪に水色の瞳をしているジレーネは、ファータの宝石と言われたものだ。もっとも、今は移動による移動で髪型等色々崩れているが。
「ふむ、復讐を望むか。それは好ましいが、まだ甘いのう」
「なっ!?」
動揺するジレーネに、魔女アリアーヌがきっぱりと告げた。
「己の身を焦がす程に、怒れ。憎め。そして……芽吹かせよ、その内に秘めた愛憎を!」
見抜かれているとジレーネは理解した。まだ自分が、現状を信じられない事も、フレドリクを愛してしまっている事も。覚悟の甘さを痛感し、ジレーネは俯く。
その様子を見てか、魔女アリアーヌが微笑む。
「まぁ、それも含めて面白い。良いぞ、主らの滞在を認めよう」
「感謝致しますわ……魔女アリアーヌ」
ジレーネが口に出来たのはそれだけだった。だが、彼女はまだ知らない。
ここから、運命が動き出すことを。
――復讐への道が、開かれることを。
――狂い出した運命が、違う歯車となり回り出す事を……。
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