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エピソード③
魔女アリアーヌの元で最初に始めたのは、着替えだった。
ジレーネもウィルフレッドも、亡国の服装のままは危険な上、そもそも何日も移動していたため汚れているからだ。
どうやら魔女アリアーヌは細かい所を気にする性質のようで、身を清める事もセットで行うよう指示された。
「主らの案内は使い魔に任せるとしようぞ」
そう告げると、魔女アリアーヌは手にしている長い杖を軽く振るう。途端、二匹の猫が現れた。白い猫はジレーネの、黒い猫はウィルフレッドの方へ近づいて来た。
「この二匹が、主らの世話をするであろう。では我は自室に戻るでな……後は好きに過ごすが良い」
そう告げて、屋内へと戻って行く魔女アリアーヌを見つめていると、二匹の猫が動き出した。ジレーネ達が後に続くと、途中で分かれ道になった。
どうやら、ここから男女で湯浴み場が違うという事なのだろうと判断したジレーネは、白い猫に着いて行く。
少し視線をウィルフレッドに向ければ、彼は既に黒い猫と共に先へ進んでいた。
(不思議な男ですわね……任務は気にするのに、わたくし個人の事は興味無い様子で、ちょっと不快ですわね)
無視されているわけではない。だが、無関心に振舞われるのもそれはそれで寂しいものがある。何せ彼が――今のジレーネにとっての唯一の同胞なのだから。
****
「ふぅ……」
湯浴み場は、こじんまりとした木造の個室だった。慣れない場所での湯浴みに、少し緊張する。すっかり汚れたドレスを脱ぐと、ジレーネは湯に浸かる。
ちょうどいい湯加減が、全身に沁みわたる。一息吐いて……ジレーネの瞳に涙が溢れる。
「う……うぅ……!」
様々な想いがジレーネの胸の中を渦巻く。悲しみ、怒り、失望……。
特に、フレドリクへの想いは未だ強い。
(どうしてですの、フレドリク? わたくしへ向けた笑顔も愛の言葉も、全てが偽り? 我が国を滅ぼすための布石でしたの?)
――赦せない。
覚悟が甘いと魔女アリアーヌに言われたのは、現実逃避だったのだろう。
それに気づいたジレーネは、改めて現実と向き合う。
そして、甘い自分を……ジレーネは捨てた。
復讐する。
亡き国、民、家族のために。
己の愛を踏みにじった男への怒りを込めて。
ジレーネは、全身全霊をかけて復讐をすると誓い直した。
そのために、ジレーネは決めた。
ウィルフレッドに武術を教えてもらうのは変わらない。だが、魔女の所にいるのだ。ならば……。
(魔法を教えて頂けないか、交渉してみようかしら?)
ジレーネは復讐のために、理から外れる事を覚悟した――。
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