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エピソード④
「ほう? 魔女になりたいと? 某国の皇女が?」
湯浴びを終えて、魔女アリアーヌが用意してくれた、黒いシンプルなワンピースに着替えたジレーネは、先程決めた事を話した。
それを聞いた彼女は、しばらく沈黙した後口角を上げた。
「良いぞ。皇女が魔女になるなど、面白くて堪らんからな! だが、騎士には言わなくていいのか?」
「それは……」
そう言えば勝手に決めてしまったと、ジレーネは後悔した。だが、背後からウィルフレッドの声が聞こえて来た。それは……。
「構いません、それがジレーネ様のお望みであれば」
振り向けば、白いワイシャツに黒いパンツとブーツに着替えたウィルフレッドが、相変わらずの無表情で佇んでいた。視線が合うと、ジレーネに挨拶をする。
彼はジレーネの決意を肯定してくれるようだと気づいて、彼女は少し涙ぐむ。
「ウィルフレッド……」
「自分はジレーネ様をお守りするのが使命ですので。できる限りお力になれればと存じます」
「騎士よ……お主。いや、野暮というものだな……気にするな」
首を傾げるジレーネに対し、ウィルフレッドは何も答えなかった。そのかわりに、魔女アリアーヌが口を再度開く。
「では、皇女……いや、ジレーネよ。主を我が弟子として迎えようぞ。そして、騎士よ。主には雑務を頼もうかの?」
「それがジレーネ様のためであるのでしたら」
どこまでも冷静かつ静かに答えるウィルフレッドを見て、ジレーネは思う。
(わたくしは、彼の事を何も知らないですわ。知る……事も必要ですわよね?)
だが、聞く勇気はなく。
そうしている間に、魔女アリアーヌから修行の提案をされてしまい、ジレーネはウィルフレッドに声をかけるタイミングを逃してしまった。
(まぁいつでも聞けますわよね? これから、長いのですから)
ジレーネの復讐は、まだスタートラインにすら立っていない。
これからなのだ。
そう、ジレーネの復讐への旅路は……。
****
魔女アリアーヌから魔法を、ウィルフレッドから武術を教えてもらう事数日。
ジレーネはめきめきと腕を上げていた。
元々運動が得意であったのもあるが、どうやら魔力が高く、魔法適正が高いらしい。
そのため、初歩的な魔法なら扱えるようになっていた。
もっとも、魔女アリアーヌからはまだまだと評価されているが。
――それでも、もう無力ではないのだという想いが、ジレーネにあるが。
「今日はここら辺にするかの? 食事にしようぞ」
「はい、お師匠様」
弟子になってから、ジレーネは魔女アリアーヌを師匠と呼ぶようになった。まだまだ関係は深くない。
これから知ればいい。
それだけなのだから……。
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