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エピソード⑤
今日も武術と魔法の修行だ。
午前はウィルフレッドから、午後が魔女アリアーヌから、それぞれ教わるルーティンになっている。
「ジレーネ様、だいぶ剣の扱いが良くなられました」
相変わらず無表情ながら、褒めるウィルフレッドにもだいぶ慣れて来た。だが、彼は自分の事を語らない。
「ジレーネ様には関係ない事ですので」
聞いてもそう返すだけで、彼の事が何もわからない。
それが少しづつ、ジレーネの心に影を落とす。
自分を守り、そして唯一の同胞。
そんな貴重な存在にも関わらず、何も知る事が出来ないのがもどかしい。
ただ、フレドリクへの愛憎がウィルフレッドとの距離を縮めるのに躊躇している感覚もある。
ウィルフレッドも必要最低限しか関わろうとしていない様子でもある。
……悩みつつも、今に至っている。
『ジレーネと騎士よ、食事の時間であるぞ』
使い魔である二匹の猫がぶら下げている鈴から、同時に魔女アリアーヌの声が響く。
いがいな事に、魔女アリアーヌは時間を気にする性質らしい。
何百年も生きると言われる魔女でありながら、そういう細かさに人間味をジレーネは感じていた。
ウィルフレッドと共に、近くの川辺から魔女アリアーヌの家に向かう。
近くもなく、遠くもない距離を二人で歩く。会話はない。
しばらくして、家に辿り着くとジレーネをウィルフレッドが先に行かせる。
そうして、中に入ると魔女アリアーヌがリビングにのんびりと座っていた。なお、料理は彼女の使い魔らしい人形が作っている。
最初は驚いたものだが、すぐに慣れてしまった。
「なんだ貴様ら、情緒もなにもないな?」
「情緒も何もないのは当然でしょう?」
つい反論してしまうジレーネに対し、ウィルフレッドは何も言う事なくジレーネから預かった剣を片付けに行ってしまった。
少しだけ寂しさを感じる自分に嫌悪する。
(これでは、彼にすがるようなものでしてよ)
己の誇りにかけて、赦すわけにはいかなかった。
――ウィルフレッドに甘えるなどと。
例え、唯一の同胞であったとしても……復讐を終えるまでは自分を律しなければならない。
甘えてしまったら、復讐への想いが揺らいでしまう。
それが怖いからだ。
「ジレーネよ、復讐の炎をくべるのは良い。だが、飲まれるなよ?」
突然、魔女アリアーヌから声をかけられて驚いてしまった。それほどまでに自分はわかりやすいのだろうかとジレーネは悩む。
そんな彼女に、魔女アリアーヌが静かに続ける。
「復讐の想いと、誰かを想う心は共存できるのだからな」
見透かされている言葉に、ジレーネは黙るしかなかった。
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