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エピソード⑥
ウィルフレッドが片付けを終えて戻って来たのを確認すると、魔女アリアーヌが食事を使い魔に持ってこさせる。
スパイスと香辛料をたっぷりと使った少し辛いトロトロのスープに、ちぎりやすい白いパン、そして羊肉のソテーだ。
自国では食べた事のないメニューに、ジレーネは驚いたものだが今ではそれが楽しみになっている。
「さて、食べるとするかね?」
魔女アリアーヌが早速食事を始める。ここに来て驚いたのだが、彼女は神に祈りを捧げないらしい。
曰く。
「魔女は理から外れた存在、神に祈ってどうするというのだ?」
それを聞いたジレーネは、何故か腑に落ちた。自国を救わなかった神に祈る意味は――確かにない。
以降、ジレーネが神に祈る事は無くなった。合わせるように、ウィルフレッドも祈らなくなった。
食事を摂りながら、会話をする。
……もっとも、話すのは魔女アリアーヌとジレーネだが。
こげ茶色のスープに、パンを浸す。
トロトロしたスープがパンに沁み込み、独特な匂いが香る。
それをゆっくりと口に含めば、少しの辛味と濃いスパイスの風味が口の中に広がる。
(美味しいですわ……本当に)
温かいご飯を食べられている今の状況が、不思議に思えてしまう。
(この料理を、家族にも教えてあげたかったものですわ)
もう失った者だというのに、思いをはせてしまう。
少し沈んだ気持ちを抑えて、ジレーネは魔女アリアーヌに声をかける。
「そういえば、今日は何をされていたのですか?」
「む? 我であれば、今日は仕事よ。全く、魔女使いが荒い連中よな」
魔女アリアーヌの仕事について、ジレーネは詳しく知らない。
そして彼女も、愚痴こそ話すが詳細を語らない。
なお、ウィルフレッドに関しては我関せずという態度だ。
……それがまた、ジレーネにとって寂しいのだが。
(このままで、いいのかしら? 本当に、知らなくて……)
そういう想いもあるが、その度に脳裏をフレドリクの笑顔が過り、胸が辛くなる。愛憎が渦巻く。
(もっと強くなって……フレドリク、貴方をこの手で必ず殺しますわ)
ゆっくりと時間をかけて、食事を進めながら、他愛もない会話を魔女アリアーヌとする。その方が気楽だからだ。
横目でウィルフレッドを見ても、彼は静かに食べているだけだ。
(彼の事を気にするのは、復讐を終えてから。そうですわよね?)
ふと、思ってしまう。
復讐を終えた時、自分達はどうなっているのだろうかと――。
一抹の不安を胸の奥に隠して、魔女アリアーヌと会話を続けるのだった。
――ジレーネが一人前の魔女になるまであと……。
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