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エピソード⑦
ジレーネとウィルフレッドがここに来て数ヶ月が経った。
寒い時期となり、外での修行も辛くなる頃。
水を汲みにウィルフレッドは出て行き、魔女アリアーヌから魔法を教わっていた時だった。
「お主、あの騎士についていい加減知らなくても良いのか?」
突然言われて、思わず手が止まる。そんなジレーネに、魔女アリアーヌはわざとなのか気にする事なく話を続ける。
「なぁに、同郷の男なんぞ貴重であろうに……主らはいつも最低限しか話さん。気になるというものよ」
「それは、その。わたくしも知りたいと思ったのですけれど、彼が話したがらないのですもの! 仕方ありませんわ」
そう。
あれからフレドリクへの復讐に赴きをおいてはいたが、それでも気になってウィルフレッドに何度か尋ねてみた。
好きな物はなにか?
興味があるものはないか?
しかし、返事はいつもこうだ。
「ジレーネ様の得になるような話はありません」
これでは踏み込もうにも踏み込めないというものだ。その事を話すと、魔女アリアーヌは呆れたような声を出した。
「お主、アプローチ下手にも程があるな? 婚約者がいたうら若き皇女に、騎士の地位であるものがそうやすやすと話すものか。ジレーネよ、お主はもう皇女ではない。その自覚を持たぬかぎり、あの騎士は騎士であり続けると思うぞ?」
言われて気づく。自分はまだ皇女の気持ちが抜けていなかった事に。
――どこかで、彼を階級でみていた事に。
(そうだわ……わたくしはもう、皇女ではない。なのに……あぁ! なんてみっともないの!)
失った立場に甘んじる等、恥知らずも良い所だ。
それでは、ウィルフレッドが心を開くはずもない。当たり前の事にようやく気付き、ジレーネは顔を赤くしうずくまる。その様子を見て、魔女アリアーヌが茶をすすりながら、再び口を開いた。
「まぁ、あの騎士めもなにか抱えているようではあるがな」
「え? 彼が何かを抱えている?」
「うむ。詮索するのは趣味ではないから、詳細まではわからぬがな? 何かなければ、あのような魂の色をしておらんであろうな」
「魂の色? そのようなものも見えるのですか?」
「左様。修行を積めばな……くくく」
どこか含んだ物言いに、ジレーネは首を傾げる。
同時に、ウィルフレッドの事が更に気になって来た。
彼は今までどのような人生を歩み、騎士になったのだろうかと。
(ですが、踏み込むのは……怖い。フレドリクはわたくしに、いつも愛を囁いてくれた。花も贈ってくれて、その花の意味も教えてくれたわ。あぁ、ダメ! フレドリク、愛していた。心から貴方の微笑みが好きでしたわ。なのに……全てが偽りだったなんて!)
ぶり返してくるフレドリクへの想い。あれほどまでに酷い裏切りを受けながら、それでも忘れられない自分が――愚かだと思った。
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