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エピソード⑧
ジレーネは、皇女であろうとする醜い自分と決別することにした。
魔女アリアーヌに申し出る。
「過去と決別し、魔女として出直すためにわたくしの髪を切りたいのです」
「ほう! 女の命とも言える髪を切りたいとな! 良いぞ!」
どこか楽しそうな魔女アリアーヌに委ね、洗面所にて髪を切ってもらった。
ロングからショートにまでなったジレーネは、清々しい気分だった。
そうして、元いたダイニングまで戻ると、薪割りに出ていたウィルフレッドが少しだけ目を丸くした。
ショートになったジレーネを見て、しばらく沈黙した後ウィルフレッドは一言だけ告げた。
「ジレーネ様、珍しいですね」
そうして、薪を台所に運んで行ってしまった。
(もう少し、言葉があってもいいのに……)
そこまで思考して、自分はウィルフレッドに何を求めているのかわからなくなる。
驚いてほしかったのだろうか?
心配してほしかったのだろうか?
それとも……似合っていると言ってほしかったのだろうか。
(ウィルフレッドに、わたくしを見て欲しいのかしら? でもそれは……)
それでは、ウィルフレッドに想いを抱いているような……フレドリクに求めていたものを、彼に欲しているようなものではないか。
(ウィルフレッドはフレドリクのかわりではないわ。ですのに、わたくしったら……)
自分で自分に呆れてしまう。だが、そんな想いを晴らしてくれたのは魔女アリアーヌだった。
「恋とは突然始まるものよ。それに言うたであろう? 想いは両立すると」
「ですが、わたくしが彼を知るには、あまりに距離がありすぎますわ……」
「そこを埋めるには、かの騎士の心を開かせるしかあるまいて」
「うぅ……ですけれど、怖いのです。怨みを忘れてしまうのではないかと」
「忘れるのも一興だが、そう想うかぎり忘れんよ。大切な故郷であったのだからな」
魔女アリアーヌの優しい声に、ジレーネは涙が溢れそうになる。
「わたくし、決めましたわ。愛憎も愛情も両立させると。そのために、ウィルフレッドの事を知りたいと思います」
「うむ。その意気だな……そういう事らしいぞ、騎士よ?」
呼ばれて、台所からウィルフレッドが現れた。彼は相変わらず無表情だが、瞳が揺れているように感じられた。
「ジレーネ様、自分は……」
「無理しなくていいのよ、ウィルフレッド。ただ、わたくしがそうしたいと思っているだけですの」
「そう、ですか……」
困惑しているのか、ウィルフレッドの言葉はいつも以上に少ない。それでも、ジレーネは少し嬉しかった。
――ウィルフレッドがはじめて自分を見てくれたように思えたからだ……。
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