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自警団「ちょーとちょっと、そこの自転車、止まりなさい」
自転車男「なんすか急に。お金ならないですよ」
自警団「誰がカツ上げだ。お兄さん、この腕章見て」
自転車男「苦祖町交通安全、自警団・・・カツ上げの組織!」
自警団「おいおい、今の若者は日本語もわからんのか。私はね、この苦祖町の安全を守るためにボランティアで、特に交通安全の見守りをしてるおるんだよ」
自転車男「なるほど。通称、お節介暇人ジジイの会の方ですね」
自警団「正解!じゃないよ。君ね、失礼だろ」
自転車男「ご苦労様です、じゃあ失礼しまーす」
自警団「おいおい、ちょっと待ちなさい!」
自転車男「なんですか、オレ急いでるんですよ」
自警団「いま片手運転で、何見て運転してた。ケータイ見ながらはダメなんだよ」
自転車男「ケータイなんか見てないですよ」
自警団「見てたよ」
自転車男「見てませんよ」
自警団「じゃあ、その右手に持ってるのは何?」
自転車男「エアコンのリモコンです」
自警団「まったく見え透いた嘘を」
自転車男「本当ですって」
自警団「じゃあ見せてみなさい」
自転車男「いいですけど。はい」
自警団「ほら、ケータ・・・ん?あれ、これ、エアコンのリモコン?」
自転車男「だからそうだって言ったじゃないですか。エアコンのリモコン見ながら運転しちゃいけないって道交法あります?」
自警団「うーん、な、い、が。いや、ちょっと待って、エアコンには室温が出る画面あるよね。それ見て運転しちゃ危ないでしょ。その意味じゃエアコンのリモコンは、ケータイ気取り」
自転車男「役割がぜんぜん違うでしょ。エアコンのリモコンで会話できる?」
自警団「うーん、逆にしてたら怖いか」
自転車男「でしょ。じゃあ失礼しまーす」
自警団「ちょっと待った!」
自転車男「なんですか。急いでるって言ったじゃない」
自警団「君ね、なんでエアコンのリモコン見な自転車乗ってるわけ?おかしいでしょ」
自転車男「間違えたんですよ」
自警団「間違えた?何と」
自転車男「テレビのリモコンと」
自警団「なーるほどね。あるある。私もよく家でエアコンのリモコンと、いや、ちょい待ち」
自転車男「なんですかもう」
自警団「家ならともかく、外でテレビのリモコン手に持って運転してるっておかしいよね」
自転車男「観たい番組を録画しようとしてただけですよ」
自警団「なーるほどね。留守録して来なかっただ。あるある、っていやあのね、君の家どこ」
自転車男「ここから自転車で5分くらいかな」
自警団「あのさ、この昭和枯れススキのじーさんでも、そんな離れていちゃリモコン操作できないってことくらい、わ、か、る、けどね」
自転車男「3分圏内か」
自警団「違う!家の中よ。じゃなけりゃだめだっての」
自転車男「マジっすか。やっぱケータイ持って来るべきだったな」
自警団「おいおい、ケータイじゃテレビ録画は出来ませんよ」
自転車男「古いなぁもう。TVerとか知らない?」
自警団「テーバー?」
自転車男「ティーバー!」
自警団「テーバー?」
自転車男「ティー!」
自警団「テー!」
自転車男「ティー!!」
自警団「テーッ!!!」
自転車男「あーもうやだ。やめたやめた」
自警団「だから何それ」
自転車男「まったくこれだからな、死にかけは」
自警団「死にかけとはなんだ。当たってるだけにズドンと来る。だからテーバーってなんだと言っとるんだ」
自転車男「ケータイでもテレビ観れるアプリ。他にもいろいろある。見逃した時でも後で観れるんすよ」
自警団「ほんとかね、世の中すすんでおるのう」
自転車男「これからはリモコンじゃなくて、ケータイ見ながら運転します!」
自警団「うんうん、それなら道理は通ってるな」
自転車男「じゃ、失礼しまーす!」
自警団「気をつけ帰りなさいよ。テーバーか、いいこと聞いた。留守録をし忘れても・・・ん、待てよ。ケータイ見ながら・・・?おーい、待たんかーっ!」
【了】
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