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「猫ちゃんも捨てられたのかな?」
わたしを見上げる猫のあどけなくて哀しげな目を見ているとわたし自身と重なって見えた。
「ねえ、猫ちゃん哀しいね……わたしも親に捨てられたんだよ。君は飼い主に捨てられたのかな?」
そう尋ねると哀しさがじわじわと増す。哀しく虚しくてどうしようもない気持ちになる。
猫のくすみのない夏の空や海の色によく似た純粋な目がわたしをじっと見ている。
「猫ちゃん。君は強いね……」
気づくとわたしの目から涙が零れ落ちていた。その涙がポタポタと猫の真っ白な毛並みを濡らす。
にゃー、にゃーと猫は鳴き吸い込まれそうな空色の目でどうしたのにゃん? と言っているかのような表情でわたしを見つめる。
「猫ちゃん……わたし君を飼ってあげたいよ。でも……無理なんだよ。ごめんね」
わたしは自分の何もできない無力さがとても悔しかった。あの家に猫を連れて帰ることなんてできない。
悔しい、悔しい。悔しくてたまらない。「ごめんね」としか言えない自分自身に腹が立つ。
その時。
「君を迎えに来たよ」
とどこからともなく声が聞こえてきた。
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