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金髪碧眼のフォンド公爵は現在28歳と並居る上位貴族当主達に比べると随分若いものの、元々王国騎士団に属していた過去を持ち、王国至上最年少で近衛に抜擢されたという実績もあり国王陛下が非常に信頼を寄せている事で有名だ。
感情をあまり表に出さないせいか年齢以上には落ち着いて見え、妙な貫禄がある人物で貴族としてはかなりしっかりした体躯をした所謂美丈夫だ。
そもそも元騎士だからソレは当然なのだが高位貴族の当主としては異色な存在だった―― 貴族家の当主は嫡男が後を継ぐことが多く、彼らは騎士のように身体を鍛える事がほぼ無いので、どちらかと言うと線が細く中性的な外見の者が多いからだ。
無口で目付きが鋭いのが特徴の彼だが、ゲームのヒロインとの絡みスチルでは甘く蕩けるような表情と言葉責めを好むというギャップが大人気のキャラクター。
――余談だがその手の愛好家狙いで、愛する女性にのみ発揮される絶倫男設定――
ロザリアは現在16歳なのでオイオイ、エドモンドが12歳の時の子供? 犯罪かよ!? というツッコミを思い切り入れたくなるが、実は彼はロザリアと血の繋がりが無いのだ。
ロザリアの実の父公爵が流行病で亡くなった後で公爵家を存続させるために王命で寡婦となった公爵夫人と婚姻を結んだ入婿がエドモンドだ。
残念ながらこの国は女性が家督を継承する権利を持たないため、国王が公爵夫人に婿を宛てがう形で公爵家の存続をさせたのである。
理由はわからない事になっているが恐らくは縁戚同士の泥仕合で国が荒れるのを国王が嫌ったせいだろうと噂されている。
エドモンドはロザリアの母より6歳下だったため婿入り当時24歳。当時12歳だったロザリアとは第三者視点からは年の離れた兄妹といった風に見えたらしい。
×××
エドモンドは侯爵家の三男として産まれたが、王宮騎士団に入団してその才覚により若くして近衛騎士として取り立てられ騎士爵を有していた。
国王に仕える優秀な近衛の中でも最年少だったが女性との浮いた話が一切ない堅物で有名な男でもあった―― 多分自分の近くにいた身持ちの硬そうな男だったから『コイツにしとこ~』的に婚姻を結ばせたのだろう・・・
アレはそういうヤツだ。
今なら判る。
だって自分がそのエドモンド・フォンド公爵本人だからだ。
畜生!!
気持ち額に縦線が入るエドモンドである・・・
×××
異世界転生なら、『ヒロイン』か『悪役令嬢』かただの『モブ』でしょうがッ!?
なんでTS転生!? しかも悪役令嬢の義父?! 更にこのタイミングでなんで思い出すよ前世の私ッ?! もうちょっと空気読もうよッ!?
生前なんかヤベえ事やらかしたからその罪を償わなきゃいけないの?!
責任者出てこいッ!!
――TS転生にたった今気がついた公爵閣下。顔にこそ出ていないが、内心の焦りも相まって背中にはダラダラ冷たい汗が流れているのは仕方ない。
そして冷や汗の成分の中に過去の自分が『エドモンドの大胸筋が〜』とか『大殿筋の曲線が〜』とか『フィニッシュの表情が〜』とか・・・調子に乗って書き込んだ黒歴史の思い出も少なからず含まれているに違いない・・・
そして彼――彼女?―― は気がついた。
自分の? 義娘に向かい腹の立つセリフをキャンキャン吠える王子の周りに傅く面子に。
宰相の息子に騎士団長の息子、神殿長の息子やら大商家の息子等が王子とヒロインを取り囲んでいるのだ。
全員が三男だったか、その辺りだったはず・・・
つまり嫡男ではなく立場があやふやな連中の集団である。
そして人知れず彼女?は心の中で叫び声を上げた。
『うええぇ~~! これひょっとしなくても逆ハーエンドじゃんッ!』
1人の女に全員が手玉に取られた状態で逆ハーを迎えこのあり得ない事態を迎えたという事は、オツムかオマタのどっちかが緩い可能性がある訳だよ明智くん。
だってこのゲームは基本18R。
つまり貴族の跡継ぎとして彼らは失格である。
――ハニトラに思い切り引っかかってるじゃん。
更に全員が嫡男じゃないので家を継ぐ確率は天文学的数値のパーセンテージ、勿論マイナスのほうに振り切れてあり得ないだろう。
王子に至っては公爵家に入婿の予定だったしなぁ・・・
遠い目になっちゃうよ。婿入り先をパァにしてどうするのさ~。
なんでそんな設定にしたよ? 運営。
――そしてヒロインちゃんの猛禽類を思わす様な水色の瞳は自分に向かって『ロックオン』している・・・
え、てことは次のエモノは私ですかァ゙? いやイヤイヤイヤ、イケオジ宰相(独身)かイケオジ陛下(側妃)辺りでお願いしますぅ!
あ、裏ルートの中で一番人気って確かフォンド公爵だったような・・・(汗)
だよね~裏ルートの攻略対象の中じゃ陛下に次いで地位が高いお金持ちだし~
しかもエドモンドは奥さんとは3年前に死別ですもんねえ~・・・
ついでにこの取り巻き達の妻にヒロインがなったと仮定した場合、贅沢はできそうにはないよな~・・・。
ひょっとしたら、あのヒロインも実は転生者で玉の輿狙いなんかな??
×××
エドモンドはロザリアの母と婚姻は結んだものの、彼女は『娘を頼む』と彼に遺言を残し天国に旅立って行ったため形だけの夫婦関係はたったの1年で終了した。
彼女は流行病で落ちた体力が結局戻らないまま、床に伏せっているという病弱設定だった為だろう。
そんな公爵家側の事情もあり、責任感の強い生真面目なエドモンドに国王が目をつけロザリアの母との顔合わせもしないまま婚姻を結ばされた―― そう考えると結構エドモンドも可哀想である。
妻にアッサリ先立たれた彼だったが、家令に教えを請いながらまるで任務のように黙々と公爵としての政務を熟すことに精一杯で余りロザリアとは交流を持つ機会に恵まれなかった。
彼自身、娘と夕食くらいは極力共に摂るように心がけてはいたが、なんせ広大な領地を視察するだけでも半年かかる為、留守にする事が多かったのだ。
与えられた役職に対して真摯に取り組む気性のエドモンドのフットワークは周りの当主達に比べるとやたら軽く、馬車なんぞかったるいと自身で馬に跨り弾丸のように現地に足を運んでしまうのが主な原因ではあったのだが・・・
因みに死に別れた妻とは夫婦として過ごした日はまるで無く、寧ろ上司と部下が顔を突き合わせるたびに領地の事を相談し合うような仕事仲間のようだった―― 今となってはいい思い出である。うん。
その後も彼は再婚しないままなので、当然ロザリアは立派な一人っ子だ。
現在16歳の彼女は花も恥じらう乙女へと成長を遂げており、どうにも照れてしまってお互いコミュニケーションが上手くいっていないのが実情だ。
なので王宮で開かれた夜会の真っ最中で奇声を上げた王子に対して、ロザリアがどういった想いを持ったのかということを察せるエドモンドではなかったのである。
本来ならば――
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