リアン

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リアン

 俺が風呂から出ると子犬は新聞紙を敷いたテーブルに乗せられて、母にタオルで拭かれていた。母は頭や足先、脇、お尻、耳の裏。全身をきっちり磨いていった。子犬はされるがままになっていた。 「名前、どうしよう?」 「この子、女の子だからね。リリーちゃんにしようかしら、それとも、リリアンちゃんにしようかしら」と母は言った。 「メスなんだ」 「女の子、よ!」と母は言い俺を軽く睨んだ。「家族なんだから、メスなんて言い方はダメよ!レディなのよ!大事にするのよ!」 「はい。終わり」と母は言い、子犬を床に下ろした。「明日は獣医さんに行って健康診断してもらいに行かないとね。後は首輪とか、ごはんもいるし。忙しくなりそうね」  雨は上がり、窓からは夕陽が差し込んできた。色づいた光を浴びた子犬は淡い金色に光っていた。きれいにしてもらった子犬はどこか誇らしげに見えた。子犬は俺の方へトコトコと歩いてきた。なんだか危なっかしくて見ていられない。今にも転びそうだ。 「いいコにするんだよ」と俺は言い、しゃがんで視線を合わせた。子犬は俺をじっと見つめ、首を傾けた。可愛いな、と俺が思った瞬間、子犬は元気よく飛び跳ね、俺の頬を舐めた。 「くすぐったい」と俺は言った。自分でも分かるくらい声が弾んでいた。 「リリー、リリアン……」と俺は呟いた。子犬は不思議そうな目で俺を見つめていた。 『リリー』はなんだか可愛らし過ぎるし、『リリアン』はなんだか呼びにくい気がした。その時、閃く言葉があった。 「リアン。リアンはどう?」と俺は言った。  母は首を捻り、「リアン?う〜ん。悪くはないけど、ねぇ?」と言い、子犬を見つめた。  その時、子犬が「わんっ」と小さく吠えた。返事をした気がした。 「じゃあ……リアンちゃんね」と母は言い、子犬の頭を撫でた。  こうしてリアンは家族になった。
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