景色なんて見てなかった

1/1
前へ
/10ページ
次へ

景色なんて見てなかった

 ぼんやりと何も考えずに歩いているつもりだった。けど、足は勝手に道を選ぶ。俺とリアンの散歩道だ。リードも何もない散歩はひどく手持ち無沙汰だった。  公園のベンチに腰掛けた。リアンの居ない公園は初めて来たような違和感があった。いや、いつもは景色なんて眺めていなかった。俺の目は斜め下に向けられていた。時折、振り返り、俺を見上げるリアン。  俺は腹をくくり、スマホを取り出し、母から送られて来た写真を見た。老い、次第に弱っていく姿だ。どんな姿だって目に焼き付けたかった。もう、リアンを見る事も触れる事も叶わないのだから。  
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加