分からない

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分からない分からない分からない。 何を言っているのかがまず分からない。 いまだかつてここまで先生の話が分からなかったことがあるだろうか。 雨宮美子(あめみやみこ)。16歳。 自分で言うのもおかしな話だが、私は勉強にはかなり自信があった。 いや、正確にはあるつもりでいた。 小学生のころから大手の塾に通い、中学校では常に学年トップの成績を取り続けてきた私。 授業についていけずに困ったことなどなかったし、そんな考えもなかった。 友人らがテスト勉強に追われる中悠長に過ごしていたし、それで点数を落とすこともなかった。 なのに…。それなのに。 自分の実力よりちょっと上。先生に薦められたとおりの偏差値の高校でこんなことになるなんて……! 授業内容はまるで頭に入ってこない。 周りの子たちは、私のように置いて行かれている様子もないし、きっと簡単な授業なんだろう。 なのに、私には分からない。 中学校の時とはまるで違う。周りを見渡せばどこもかしこも私よりも頭がいい人で溢れている。 同じ偏差値帯の人が集まると、こんなにも残酷なことが起きてしまう。 あぁ私。 全然得意なんかじゃなかった。 全然頑張れていなかったんだ。 受験気は勉強していたつもりだったけれど、この学校には見合わない学力しかもっていないのだ…きっと。 「この前の化学の小テスト返すな~相原から取りに来い」 出席番号順に皆が列になる。 返却された人の表情は特に変わらない。 「次雨宮。お前、もっと頑張れよ」 返されたテストの点数に、思わずはぁと声が出る。 50点中たったの15点しか取れていない。 「美子ちゃん何点だった~?」 「え?」 えぇと…と口ごもる。 これを言ったらきっと幻滅されるだろうな。 馬鹿…だなんて自分に使うことになるのは屈辱だけど、実際私は今馬鹿だ。 頭のいいヒトたちが、もちろん私も。 一番嫌いな存在である、馬鹿。 「秘密だよ。ごめんね」 「え~気になるじゃないの。まあいいか。次は教えてよ?」 「うん。次ね」 奇跡的に友人もできたし、この環境を手放したくない。 幼いころから転校が多く、中学生になってようやく親の仕事が安定してきたころにはすっかり人付き合いが苦手になった。 高校では頑張りたいと思っていたのに。 馬鹿ではスタートラインにも立てないではないか。 「馬鹿は嫌いなんだよな……だからさぁ」 ふいに聞こえた言葉にぎょっとして振り返る。 私の後ろで雑談をしていたのは、もちろんクラスメートなんだけど…。 よりにもよってクラス1位…いや。学年1位の成績を誇る男子だった。 入学後の初テストとして行われた春課題考査。 その成績で全科目1位を記録した有名人、晴村文也(はれむらふみや)。 面と向かってお前が嫌いだと言われたわけではないのに、何だか心がずきずきと痛んだ。私だってこんな自分が嫌いだ。 勉強ができない私に、価値なんてないのだから。
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