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「数学の小テストどーだった?」
小テストが返却された授業後の休み時間。
彼が私の座席まで近づいてきた。ふわりと高鳴る鼓動とは相反するように、私の表情は落ち込む。
「………12点です(20点満点)」
たっぷりと間をおいて答える。
あれから文也君には毎日勉強を見てもらっていた。特に苦手な化学と数学は一生懸命教えてもらったのに…。
こんな結果はさすがに申し訳ない。
「今日の放課後空いてる?」
「はい…あの、ごめんな…」
謝ろうとしたらポンと頭に手がのせられた。
「え?」
「頑張ったね。前よりも断然上がっている」
彼は私の解答用紙を受け取ると、間違えた問題の解説を考えながら12点の点数の上に丁寧な手つきで花丸を一つ付けた。
こんな点数で褒めてもらっていいんでしょうか…。
周りはみんな8割越えなのに、私は出来損ないなのに。
花丸なんて貰ってもいいんでしょうか?
少しだけ暗い気分が和らいだ。
そういえば、彼の点数はどうだったのだろうか。
「文也君は何点だったの?」
「ん~。あんまりよくなかったから秘密」
「いいじゃない。見せてよ」
そう言って軽く文也君の腕を引いた。
何も特別なことはしていないのに、彼は少し驚いたような表情で彼が解答用紙から手を離す。
その時、もう何回も感じたあの違和感が全身を駆け巡る。
この表情を見るの……もしかして初めてじゃない?
既視感と安心感と共にやってくる数滴の不安感。高校が初対面のはずだよね…。似た人なんて、いたかなあ。
「あんま見ないで…恥ずいから」
つい考え込んでしまった。
彼の解答用紙に改めて視線を落とせば、そこには19点の文字が躍る。
「ど、どこがよくないのよ!」
「え、だって満点じゃないし」
「ダメなの!?」
「俺はね。ダメなんだよこんなんじゃ」
そう呟いた彼の横顔には、なんとも形容しがたい表情が張り付けられていた。
いつもの明るい笑顔でも、優しい顔でもなくて、思いつめているような、意を決したようなそんな顔。
私やっぱり…。
何か、大事なことを見落としている気がする。
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