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あの日の憧れ
小学生のころ、俺は勉強が嫌いだった。
自信がないし、もちろん結果もよくない。
「晴村君、宿題はきちんとやってくださいね」
だって面倒くさいし、自分が馬鹿なことは自覚しているし。
やっても無駄だと思ってしまうんだよなあ。
小学生ながら大手の塾に通わされているのには訳があって、俺の両親は非常に高学歴だった。
ゆえに息子の俺も中学受験を強要されていたのである。
嫌だとは思うけれど、それよりも無理だという思いのほうが強い。
雨が降っても、どんなに寒くても暑くても、塾は休みにはならない。
我ながらよくあの年で毎日塾に通い詰めていたものだ。
そんな俺をあざ笑うかのように校内テストの順位は、いつもパッとしなかったけれど。
「68位かぁ。まあまあかな」
塾に同学年の人は100人くらいいたはずだから、今思うとなかなか酷い数字である。でも、あの頃は自暴自棄だったし、それでも何も気にならなかった。
「雨宮さん、また1位ね!おめでとう」
「ありがとうごいます先生。今後も頑張ります」
小学生ながらハキハキとした物怖じしない態度の少女のことを、俺はひそかに気になっていた。彼女の名は雨宮美子。俺の通っていた塾で、すべてのテストで校内順位1位を取り続けた伝説の生徒。
大人びた少女が、当時の俺の目にはとてもかっこよく、まるで手の届かない星のように映っていた。
はじめはほんの出来心で、彼女と話をしてみたくて、勉強を頑張り始めた。
クラス分けは学力別だった。
どうにかして彼女との接点が欲しかったんだ。
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