あの日の憧れ

1/2
前へ
/8ページ
次へ

あの日の憧れ

小学生のころ、俺は勉強が嫌いだった。 自信がないし、もちろん結果もよくない。 「晴村君、宿題はきちんとやってくださいね」 だって面倒くさいし、自分が馬鹿なことは自覚しているし。 やっても無駄だと思ってしまうんだよなあ。 小学生ながら大手の塾に通わされているのには訳があって、俺の両親は非常に高学歴だった。 ゆえに息子の俺も中学受験を強要されていたのである。 嫌だとは思うけれど、それよりも無理だという思いのほうが強い。 雨が降っても、どんなに寒くても暑くても、塾は休みにはならない。 我ながらよくあの年で毎日塾に通い詰めていたものだ。 そんな俺をあざ笑うかのように校内テストの順位は、いつもパッとしなかったけれど。 「68位かぁ。まあまあかな」 塾に同学年の人は100人くらいいたはずだから、今思うとなかなか酷い数字である。でも、あの頃は自暴自棄だったし、それでも何も気にならなかった。 「雨宮さん、また1位ね!おめでとう」 「ありがとうごいます先生。今後も頑張ります」 小学生ながらハキハキとした物怖じしない態度の少女のことを、俺はひそかに気になっていた。彼女の名は雨宮美子。俺の通っていた塾で、すべてのテストで校内順位1位を取り続けた伝説の生徒。 大人びた少女が、当時の俺の目にはとてもかっこよく、まるで手の届かない星のように映っていた。 はじめはほんの出来心で、彼女と話をしてみたくて、勉強を頑張り始めた。 クラス分けは学力別だった。 どうにかして彼女との接点が欲しかったんだ。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加