発覚

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発覚

 昨夜から、雨が断続的に降っている。だらしなくソファに寝そべり、お気に入りのコーヒーを飲みながら、新進のミステリー作家の最新刊のページをめくる。 『ミステリー、好きなんですか』  当然のように誘われるようになって半年ほど経った、金曜日の夜。東海林課長のマンションに行くと、某書店のロゴの付いた茶封筒が集合ポストに突き刺さっていた。部屋に入った途端、彼は茶封筒を開封して、ほどほどに厚みのあるハードカバーをカウンターの上に置いた。続けてビジネスバッグから似たような厚さのハードカバーを取り出すと、焦茶色のブックカバーを外して書棚に入れた。それが、とある有名作家のミステリー小説だったので、意外に感じた。彼が昼休みに読書している姿は目にしていたけれど、ブックカバーの下はビジネス書なんだと勝手に思っていたから。 『いや……特に。話題作だからな』 『はぁ』 『柊真も売れている本は読んでおくといい。取引先とか、思わぬところで話のネタになるぞ』 『じゃあ、この本借りていいですか?』  今、棚に収められたばかりの赤紫色の背表紙を指すと、東海林課長は頷いた。  あれ以来、課長のを借りて読むのが習慣になった。彼がネット注文した新品を、彼の次に読む――全てのページに付いた彼の指紋を、1ページ1ページ辿っていく。読書という行為そのものよりも、手垢を重ねていく行為に喜びを覚えていた。  それも――今手にしている、この本で最後だ。そして、この本が彼の書棚に戻ることはない。図らずしも、想い出の1冊になってしまった。 「大切に……読もう」  胸の奥が切なく疼く。栞を挟んで、灰色の表紙をひと撫でする。残り香くらい付いていたら良かったのに。
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