発覚

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 月曜日。いつも通りに出社すると、既に社内はザワついていた。  所属する総務部のフロアは更に浮き足立っており、ドアを開けると同僚達の視線が一斉に僕に向けられ――バラバラと散った。 「おはようございます……なにかありました?」  隣席の村松(むらまつ)さんに探りを入れてみる。彼女は、僕の1年先輩だ。部署内のあちこちで、近隣同士、声を潜めて何事か囁き合っている。それがどうも楽しい話題じゃないみたいで。 「小阪部君、おはよう。今朝のニュース見てないの?」 「えっ?」 「東海林課長が、昨日遺体で発見されたって」  思わず課長の席に視線を向ける。普段は僕より早く出社しているのに、その姿がない。でもそれは、分かっていたことで――。 「柄本君が……取り調べを受けているらしいの」  壁のホワイトボードを振り返る。柄本は、今日から関西支社に出張の予定だったはずだ。 「なんで……」 「課長を刺して、自殺しようとしたんだって」 「自殺、ですって?」  荒らげた声がひっくり返る。部署内のあちこちから聞こえていたヒソヒソ声がピタリと止まった。 「小阪部君、声大きいわよっ」  眉をひそめた村松さんが、慌てて僕の腕を強く引っ張る。そして、更に声を低くした。 「柄本君ね、死にきれなくて……救急搬送された病院で自白したそうよ。広報にいる同期が、出社した途端マスコミ対応に回されて、『こっちまで殺す気か!』って怒っていたわ」  なんだよ、それ。心中するつもりで刺したなら、どうして課長の側を離れたんだ。 「柄本は『自分が東海林課長を殺した』って言っているんですか?」 「私は、そう聞いたけど……小阪部君?」 「動機は? 村松さん、聞いていますか?」 「ちょっと、どうしたの?」 「柄本じゃないっ!」 「ちょっと、ちょっと、小阪部君!?」  机を両手でバンと叩いて、立ち上がる。椅子がガタガタとやかましい音を響かせた。傍らの村松さんが、恐怖と驚愕の混ざり合った眼差しで僕を見上げている。 「東海林課長を殺したのは、柄本じゃないんだ! 課長は、僕が殺したんだ! 課長は、僕と付き合っていたのに、柄本なんかと浮気したから……!」  静まり返った室内に、僕の告白はよく通った。ここにいる全員が僕に注視している。 「おいっ、小阪部は来ているか!?」  ドアが乱暴に開き、血相を変えた総務部長が駆け込んできて、僕を睨みつける。 「今、警察が、小阪部に話を訊きたいって……どうなっているんだ!!」  固まっている総務部の面々に向けて、僕は目一杯の笑顔を見せた。
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