帰り道

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 アルハヴトンの腕を振り払い、屹立の先端を強く握りこむ。押し寄せてくる波のような感覚をやり過ごした柊斗が目を開けると、にやにやと目を細めたアルハヴトンが柊斗のことを見おろしていた。 「もう……アルぅ……」  涙目になりながら、柊斗は抗議の声を上げた。だが、どうにも甘えるような響きが抜けない。 「今日は、アルに挿れてもらって、いきたいのに……」 「……っ!」  アルハヴトンが息を呑む音が聞こえた。ぐい、と柊斗の肩が掴まれたかと思うと、股間に熱い塊が押し付けられる。 「もう一回言ってくれ、柊斗」  耳元で囁かれた声は低く、優しいのに、絶対に抗えない強制力を持っていた。 「あ、アルの……それ、が、欲しい……」  再度言わされるとなるとどうにも恥ずかしい。柊斗がつっかえながらそう繰り返すと、アルハヴトンはぐるぐると唸った。サイドランプの下にある引き出しにその腕が伸び、中から小さなボトルと、コンドームの袋を取り出す。  銃口を思わせるアルハヴトンの屹立がゴムの薄皮に包まれていくのを、柊斗はじっと見つめた。表面の潤滑剤がてらてらと光を反射する様子が却ってなまめかしく、柊斗へこれからの期待感を抱かせる。  膝を立てた両足を開くと、ボトルの中身を載せた指先をアルハヴトンがその間に差し込む。孔の周りに塗りつけられた、と思う間もなく、中に指先を突きこまれていた。 「ううっ」  驚きと苦しさに柊斗は小さく呻くが、まるでそんなことは意に介さないまま太い指先は中を押し広げてくる。向こうも気が急いているのだろう、かなり強引に奥まで指を差し込まれた。 「あー、ああっ、ふああ……」  しんどい、けれども求められていることが嬉しい。あられもない声を上げ、シーツを握りしめているうちに指が増やされ、中にローションが塗り広げられていく。  柊斗の上にかがみこんだアルハヴトンが、ちろりと舌を出した。ざらりとしたその先端で、硬く尖っていた乳首をつつかれる。 「あ、アル、そこはっ」  舐められているのは胸のはずなのに、なぜか屹立に電流のような刺激が走る。柊斗の身体を震わせると、さらに増やされた指が孔の入り口付近を軽く押した。指先に柔らかく振れられただけなのに脳天を突き上げられるような快感があり、柊斗は大声で叫んでいた。  目の焦点が合わない。肝心の部分には触れられていないのに、襲ってくる快感で意識が飛んでしまいそうだった。 「柊斗、うつぶせになってくれ」  アルハヴトンにそう指示されたとき、柊斗はふわふわとした夢の中にいるような心地になっていた。柊斗、ともう一度呼びかけられ、ようやくアルハヴトンの声が柊斗の中で意味を結ぶ。 「ん……」  よろよろと寝返りを打ち、逞しいライオンの獣人に尻を差し出す。腰骨の上を掴まれ、柊斗の孔に熱い切先が押し当てられた。 「入れるぞ」  枕を抱えながら、うん、と答えた。  押し込まれた質量は、ただ熱い、としか言いようがなかった。 「……ぁ、っ、アル……」  先ほどまでの指も太かったはずなのに、そんなものの比ではないほどの存在に満たされていく。きついはずなのに、やっとあるべきものがそこに戻ってきた――そんな嬉しさと充足感があった。 「奥っ、あ、入っ、ああーっ」  容赦なく、柊斗の中を蹂躙するかのようにアルハヴトンは奥へと挿入してくる。そんなに入らないと柊斗が泣き声を上げそうになった時、ようやく下生えが柊斗の尻に当たった。  アルハヴトンの動きが止まり、ぐるる、とまた喉を鳴らす音が聞こえた。首筋を甘噛みされ、柊斗の背筋が粟立つ。 「ああ……柊斗、最高だ」  睦言と共に、ざらざらとした舌が耳たぶを撫でていく。はうぅ、と変な声を上げ、意図せず中にある剛直を締め上げてしまう。 「ん、んあっ、アルっ」  柊斗が体を震わせると、背後からも「んっ」と押し殺したような声がした。腰を掴んだ手の力が強くなり、そして、抽送が始まる。  最初はゆっくりと、それからだんだんと激しく。中に入れられた剛直とそれを包む内壁が擦れ合うたびに柊斗の目の前は白くなり、体の奥底から快感がこみあげてきた。  アル、と。  最初はそう愛しい片割れの名前を呼びながら、柊斗は枕に縋りついていた。だが腰を振られ、奥を突かれるうちに二人の境目は曖昧になり、柊斗はやがて自分が誰の名前を呼んでいるのか分からなくなっていった。  渾然と溶け合い、一つになり――絶頂に達した柊斗は、そのまま白い瞬きの中に意識を沈めていった。
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