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暴れる悠真を、守雄が全体重を乗せて押さえつける。
「なぁ、ユーマ。お前は周りに守られて幸せに育ってきたんだろうな」
「う、んん……!」
「俺の父親はな、最低のクズだったんだ。母は孕まされて、金巻き上げられて、挙句生まれた俺ごと捨てられた。辛酸を舐めながら、それでもなんとか食い繋いで生きてきたんだよ」
低い声は呼吸が触れそうなほど近くなる。
「なぁ、理不尽だよな。生まれた腹が違うだけで俺とお前はこんなに違うんだから」
涙に滲む目を薄く開けば、恐ろしいほど黒い感情が見下ろしていた。
全身が震え、抵抗する力さえ抜けてくると、悠真を押さえていた手が唐突に離された。
「うっ!けほっ、ごほっ!」
堰き止められていた空気が一気に肺へと流れる。酷い耳鳴りが頭の芯を貫き、悠真は堪らず前にいる人にしがみついた。
守雄は苦しむ悠真を黙って見ていたが、さっきまで首を絞めていた大きな手がそっと頭をなでた。
「結局俺は一人になっちまった。だから、もう……」
穏やかな声音に悠真が顔を上げると、そこには孤独な笑みがあった。
「最後にお前に会えてよかった気がする。……じゃあな」
守雄は悠真を残し、外へと出て行った。
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