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「……本当だ」  端的な返事だ。それでも悠真は真意を見逃すまいと隣の人を見つめる。 「どうして、そんなことになったんだ?」  守雄は真っ黒な夜海の果てを見ていたが、ついに諦めの吐息をこぼした。 「……恭子が、俺を階段から突き落とそうとした。でも咄嗟に避けちまってな。バランスを崩した恭子が代わりに落ちたんだ」 「恭子ちゃんが?」  悠真は本気で驚いたが、守雄は淡々と続ける。 「恭子は、ずっと淋しいんだろうな。俺の母親にも異常なほど執着して、依存して。だから俺のことも邪魔で憎くて堪らなかったみたいだ」 「でも、だからって……!」  非難めいた声が出たが、守雄はむしろ(なだ)めるように苦笑した。 「いいんだ。あの時俺が荒れてたのは事実だしな。俺はただ、これ以上俺のせいで母さんに苦労はかけたくはなかった。だから高校も中退して俺が家を出た」  西浦との再婚は辛い思いをし続けた瑠美がやっと掴んだ幸せだ。守雄はそれを守る為に、どれだけ後ろ指を差されようとも、たった独りで沈黙を貫いてきたのだろう。  だが母は息子を信じ続けていたに違いない。何度も戻ってくるよう説得し、どれだけ本人に追い返されても、何かと理由をつけては美味しいものを手土産に会いに来たのだから。
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