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「もう来なくていいっつってんのに、あの日も、わざわざ深夜に帰って来る俺に合わせて会いに来てよ。それでその帰りに、外から、悲鳴が……」
守雄の声が波音にか細く消える。たった一人の肉親を失った痩せた肩に、抱えきれない孤独と後悔がのしかかっていた。
片膝を抱えながら聞いていた悠真の目から、静かに一筋の涙がこぼれ落ちた。守雄という男があまりに寂しく、それから、とても優しかったから。
悠真はバレないように涙を拭い、息を残らず吐いてから言った。
「……分かった」
背筋を伸ばし、穏やかな黒に染まる海に向けて、できるだけ、はっきりと。
「守雄さんは何も悪くないってことも、それから殺人犯じゃないってことも」
守雄が伏せていた顔を上げると、海から目を戻した悠真はぎこちなく笑ってみせた。
「あと、守雄さんはまだ独りじゃないよ。かわいい従兄弟が目の前にいるんだからさ」
守雄は目を見張ったが、やがて乾いた声で笑いだした。
「はっ、ははっ。ったく、バカだな。拉致られて首まで絞められたってのに、これだから、ガキってやつ……は……」
肩が震え、語尾が震え、大きな背中が丸まる。
「う、うぅ……」
優しい男の隠された嗚咽と慟哭は、波の音と重なり遠く夜空へと溶けていった。
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