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エピローグ
***
衝撃的な事件から三ヶ月。
あの日以来悠真の周りは平和そのもので、夏前と変わらぬ平凡な生活を送っている。通り魔が捕まったとニュースで取り上げられていたが、映像に映っていたのはもちろん守雄ではなかった。
「はーぁ。姉さんには悪いけど、母さん、もう二度とあそこの一族とは関わりたくないわぁ」
通夜での冷遇を思い出したのか、車を運転しながら母がぷりぷりと怒っている。
「あんたも勝手にどっか行くし、びしょ濡れで帰ってくるし、大顰蹙だったんだから」
「だからごめんって何回も謝ったじゃないか。っていうか俺のせいじゃないし」
母はわざと尖らせていた唇をにこりと変えた。
「まぁ、いい子に育ったからいいけどね」
「そういうのウザい……」
嬉しそうな母に参っていると、悠真の手の中でスマホが音を立てた。
「ほら、もう先に着いたんじゃない?」
「そうかも。……って、きたきた、画像だ」
送られてきたのは、新しいアパートの前で無表情のままピースをしている男の自撮りだ。
「うははっ!リクエスト通りだけど、世界一ピースが似合ってない!」
悠真は笑いながら『こっちももう着く』と返事を打つ。楽しそうな息子の様子に母がにやにやした。
「よかったわねぇ。あんたずっと母さんにお兄ちゃんを産めって無茶な駄々こねてたのよ」
「いつの話なんだよそれ!?」
目的地に着き車から降りると、すっかり秋に染まった空が薄い雲を広げている。
悠真はスマホをポケットにしまい、やっと説得に応じてこっちへ来た人をアパート前で見つけると、目一杯手を振った。
— 完 —
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