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「出ていって!出ていってよ、この人殺し!!」  泣き喚いているのは悠真と歳の近い女の子だ。その周りを大人たちが取り囲み、一人の男を指弾していた。 「守雄(もりお)くん、悪いがここは君が来ていい場所ではない。この子の為にも出て行ってくれないか」 「遺産の話がしたいなら私から豊くんに伝えておこう。今すぐ出ていきなさい」  追い立てられた長身の男が悠真のすぐそばを通り抜ける。すれ違いざまに鼻についたのは煙草の匂い。悠真は男の鋭い目と一瞬だけ視線が絡み、小さく息を飲んだ。  男は自動扉をくぐり外へと出て行った。二十半ばの大人であったが、やたらと擦れた印象だけが残った。 ヒソヒソ、ヒソヒソ——。  あちこちで悪意を込めた囁きが飛び交う。悠真には状況が全く分からなかったが、この場の息苦しさに限界を感じた。  自分も外に出ようと正面玄関に向かっていると、さっきの女の子が後ろから追いかけて来た。 「待って、あの……悠真くん!」  不意に名を呼ばれ立ち止まる。女の子は悠真と目が合うともじもじと手を擦った。 「あ、あの、受付でそう呼ばれてるの聞いたから……。その、さっきはごめんなさい、変なところ見せちゃって。私、恭子。今日はママの為に来てくれてありがとう」  ママの為に。悠真はその一言で恭子が亡くなった人の娘なのだと知る。何と声をかければいいのか戸惑っていると、伺うような目が見上げてきた。 「ねぇ、少しお話しできないかな」 「え……俺と?」 「うん。悠真くんのママは、私のママの妹さんなんでしょう?お話聞きたいな」  恭子が泣き濡れた目で健気に微笑む。悠真は少し考えてから頷き、壁に沿って並んだベンチに二人で腰を下ろした。
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