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興奮していた恭子は涙を拭い、縋るように悠真の手を握りしめてきた。
「ねぇ悠真くん。今度あいつが来たら、守ってくれる?」
すべすべの白い手が悠真の首筋を辿り頬に触れる。
「悠真くんは私の味方でいてくれるよね?」
柔らかな指先の感触に、悠真の鼓動が速まった。
「う、うん。分かった」
「ほんと?」
恭子はパッと目を明るく輝かせ、嬉しそうに頬を染めた。
遠目に別室から出て来た母が目に入り、悠真が慌てて立ち上がる。
「ごめん、もう戻らなきゃ」
「うん。お話ししてくれてありがとう」
恭子は微笑みながら悠真の背中を見送る。一人になると、その赤い唇は深く口角が吊り上がっていた。
「母さん、遅いよ!」
悠真が抗議しながら駆け寄ると、母は外にある自動販売機を顎でしゃくった。
「悠真、ジュース買ってあげるから来なさい」
「ジュース?そんなの別に……」
「いいから」
母の目配せで何か話があるのだとピンとくる。すっかり日の落ちた外に出ると、母は自動販売機に五百円玉を入れながら、姉は通り魔に殺害されたのだと打ち明けた。
「まぁ、だからと言って今日何があるってわけじゃないけど。ちょっと居心地悪いと思うけど一時間くらいで終わるから我慢してね」
「ん、分かった」
適当に選んだ緑茶がゴトンと音を立てて出てくる。悠真がそれを取り出すと、ポンと背中を叩かれた。
「もうすぐ始まるから、それ飲んだら戻っておいで」
母は背筋を伸ばし先に葬儀場へと戻っていく。悠真はペットボトルのキャップを捻りながら暗い空を見上げた。
「はぁ、戻るの気が重いなぁ」
ぼやきながら緑茶に口をつけていると、突然真後ろから強く肩を掴まれた。
「じゃあ来いよ」
「えっ」
煙草の匂いが鼻につき、驚く間もなく引きずられる。
「な、何……!?」
「ミチヅレ。お前でいい」
悠真は停車していた車に力尽くで押し込められ、人知れず連れ去られた。
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