ジンライムのようなお月様

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 吾輩は猫である、名前はシロ、体毛が白いというわけではない、飼い主さまが面倒くさがって、代々つけている名前を引き継いだだけなのだ。  つまり私はいく代目かのシロということになる。歌舞伎役者や落語家などであれば、そういった名だたる大名跡もあろうけれど、所詮は家の飼い猫であるからして、シロというなんの珍しくない、名前を継いだとて、吾輩が何かしら偉くなったり、他の猫を見下すというのは、あろうはずもない。  あろうはずもないのだけど、吾輩はいわゆる由緒正しい、血統書付きの猫である。とそう飼い主さまはおっしゃっている。飼い主さまである松子さまは、吾輩をそれこそ明治維新からのお付き合いのあるお友達の家で、生まれたたくさんの子猫たちの中で、一番可愛かったからと理由で、吾輩をお選びになられた。そう私は由緒正しき家がらのお家の猫の子孫である。当然、血統書がしっかりしていると言っても差し支えなかろう。  しかしながら飼い主さまであるところの、松子さまは、どうものんびりやであることもおおく、ご学友はこの猛暑の中、涼を求めて海外や山荘などの避暑地に出向いているというのに、そういうアグレッシブな生活は嫌いだなんだともうして、吾輩と家にいてかき氷アイスなどを、時々むさぼっているのである。 「ただいま」そう言って松子さまが帰ってきた。 「おじゃまします」あいつの声が後に続く。  ああ、今日はあいつが来たのか。あいつの名前は栄二である。松子さまはとても猫思いないい人なのだけれど、人間の男を選ぶセンスということはからっきしである。いく人かお付き合いした男どもを見てきたが、ため息しか出ないやつらばかりである。 「そこにおかけになって待っていてね」そう言って栄二に椅子をすすめて、松子さまは飲み物と軽食の準備をする。栄二はさも当然だと言わんばかりに、ダイニングの一番いい席に腰を下ろす。それで松子さまが甲斐甲斐しく、晩酌の準備をするところを眺めてニヤニヤしているばかりである。  時々は吾輩の方に視線を送る。吾輩は絶対無視を決め込んでいる。がしかし今日は何を思ってか、席からやおら立ち上がり吾輩の方ににじり寄ってくるではないか。
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