プロローグ

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プロローグ

「そのナイフを拾ったのは、どこで、何時ごろのことですか?」 俺は拾った場所と時間を細かく説明した。 警察官たちは互いにうなずき合い、俺に一時的に警察署まで同行するよう求めた。 無実を証明するためにも、俺は警察の言うことに従った。 警察署に着くと、事情聴取(じじょうちょうしゅ)が始まる。 ナイフを拾った経緯や当時の状況を詳しく話したが、そのナイフには俺の指紋がびっしりと付着していた。 結局、俺が実行犯とされてしまう。 夕方になり、全国に緊急速報ニュースが流れた! 俺が犯人であると報じられたのだ。 被害者は65人 その内、死者数は17人、重傷者が31人だった。 被害者数を聞いた時、俺は驚愕(きょうがく)した。 「多すぎでしょっ!」 しかし、俺の叫びは(むな)しく取り調べ室内に響き渡った。 当たり前のことだが、諦めるわけにはいかない。 俺は怒鳴(どな)った! 「どうやったら、こんなナイフ一本でこれだけの事件を起こせるのですかっ!? 65人を刺したんですよ。168の身長で痩せ型の俺にそんなパワーがあるはずもない!亡くなった人の中にはプロレスラーや格闘家だっていたって話じゃないですか!?」 「確かに君の言いたいこともわかる」 「そうでしょ!」 「ま、もう決まった話だから」 「おい!」 「落ち着きなさい」 「落ち着きなさいじゃないでしょ!? よく調べてくださいよ! 5分しか調べてないじゃないですか。思い付きで俺が犯人だと決めてニュース速報流すなんて、ひどい!」 警察は食い下がる俺にタブレット端末を見せてきた 「だったら、これは何なのかな?」 「ん?これは、俺のyoutubeのダッシュボードじゃないですか?」 「そうだ!君の投稿動画の再生数を見てみなさい」 「ん?」 「全てゼロだよね?」 「だ、だから、それがどうしたのですか?」 「君はこの程度の価値しかないということなんだよ」 「え?何それ!?YouTube動画の再生数と俺が犯人かどうかなんて関係ないことでしょ?」 「いいや。とても重要なことだ」 「はあっ!?」 「時代は変わったのだ。再生数、チャンネル登録者数が全てを決定する時代なのだ。君のVTuberアバターが世の中で高く評価されていたのなら、また話は変わっていたのだろうがな」 「え?えっ!?」 「世界は多大な影響と恩恵をもたらしてくれるインフルエンサーにしか興味はないのだよ」 「な、何を言っているっ!?」 警察は俺を激しく睨み付け そして勢いよく人差し指を私の額に押し当ててきた! 「価値のないVTuberよ。この世界から消えるがよいっ!」 俺は警察の言葉に混乱した。 (一体何なんだ!?こいつ!) あれから、長時間言い合いになったのを覚えてはいる。 しかし、何を言ったかまでは覚えていない。 1年2ヶ月後。 俺の身の潔白が晴れることはなかった。 事件の残虐性とあまりにも多くの犠牲者を出したことで、俺の死刑が確定した。 さらに2ヶ月後 俺の死刑が執行された。 だんだんと意識が薄れる。 が次の瞬間。 目を覚ました俺は見知らぬ場所にいた。周囲には見慣れない風景が広がり、壮麗(そうれい)な城や中世風の町並みが見える。 「ここは一体どこだ…?」
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