第1話 VTuber異世界転生

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第1話 VTuber異世界転生

俺はゆっくりと立ち上がり、周囲を見渡した。 どうやら森の中のようだ。 しばらく周囲を見回していると 「!」 目に飛び込んできたのは、巨大な森林の中に佇む壮麗(そうれい)な城だった。 俺は森のひらけた所に移動した。 そこから、城と一体となった街並みを見下ろせた。 「うわ..」 城の塔は空高くそびえ立ち、その周りには中世風の街並みが広がっていた。 石造りの家々が整然と並び、煙突(えんとつ)からは細い煙が立ち昇っている。 遠くからは市場の喧騒(けんそう)や馬車の音が聞こえ、まるで中世の絵画の中に迷い込んだかのようだった。 「ここは一体どこだ……?」 俺は呆然(ぼうぜん)とつぶやいた。 信じられない光景に、頭の中が混乱していた。 ほんの少し前まで、自分は現代の日本にいたはずだった。 死刑が執行(しっこう)され、すべてが終わったはずだった。 しかし今、俺は 「生きている……」 しかも全く見知らぬ場所で。 手を広げ、足元の柔らかい土の感触を確かめる。 風が顔に当たり、鳥のさえずりが耳に届く。 この世界は確かに現実だ。 その時、俺は川面(かわも)に映る自分の姿に驚いた。 自分の顔を見つめると 「あれ? 俺のこの姿、VTuver用のアバターそのものじゃないか! しかもかなりリアルだ。ステータス画面には年齢が17って表示されている」 自分の顔を触りながら、川面に映し出された自分の姿を覗き込む。 「どうしてこんなことに?」 思わず口に出していた。 周辺を見回す。 「どうやってここに来たのか?」 何が起こったのか、分からない。 だが、一つだけ確かなのは 俺は生きているということだった。 「生きている。 俺は生きているんだ!」 自分に言い聞かせるように何度もつぶやいた。 心臓の鼓動がはっきりと感じられる。 「でも、この後どうすればいいんだ?」 誰に聞くともなく声に出した。 歩き出し、城と街の方へ向かってみることにした。 「何か手がかりがあるかもしれない」 この奇妙な状況を理解するための情報が得られるかもしれない。 俺は一歩一歩、慎重に進んでいった。 草むしりをしていたあの日から、何もかもが変わってしまった。 しかしそれでも前に進むしかない。 今はただ、この新しい世界で何が待っているのかを見極めるしかない。 「よし、行こう」 自分に言い聞かせ、足を進めた。 森の向こうに見える城の壮麗な姿に圧倒されながらも、俺は心を奮い立たせ、新たな冒険の始まりを感じていた。 「あの街に行ってみよう」 山の頂から見下ろす景色はまるで夢のようだ。眼下には、古い石畳(いしだたみ)の通りが広がり、カラフルな屋根が並ぶ美しい街並みが見える。 「この世界で何が待っているのか」 俺は新たな決意を胸に、歩みを進めた。 城を目指して歩き続ける中、俺はふと手元のスマホに目をやった。 「ん? この異世界でもスマホが使えるのか?」 ためしにカメラアプリを起動すると、正常に動作した。 驚きとともに、新たな可能性が頭をよぎった。 「だったら。 この異世界での冒険や街の様子を動画に撮影し、投稿できるかもしれない」 俺はそうつぶやき、スマホを構えた。 「これが新しいチャンスかもしれない」 壮麗(そうれい)な城、美しい中世風の街並みを撮影し始めた。 もしこの動画が現実世界に投稿できるなら、視聴者は驚き、興味を持つに違いない。 「この異世界を記録してやる。 俺のYouTubeチャンネルを成功させるために」 そう決意し、俺は撮影を続けた。 城を目指して歩き続け、ようやく街の入り口にたどり着いた。 街は石造りの門で囲まれており、門番が見張りをしている。 俺が近づくと、門番は一瞬、警戒した様子を見せたが 特に咎めることなく通してくれた。 さらに門番の兵士たちは、俺の動画撮影にまで協力してくれた。 「よし! 収録できた。 あの門番達、いかにも異世界って感じのいい装備をしていたな。 では早速、YouTubeにアップしよう」 俺は近くに置いてあった木箱に座り、撮影した動画を投稿。 しかし 投稿してから20分経過するが、再生回数はゼロ。 そりゃそうだ。 俺は底辺VTuberだ。 動画が再生されたことなど、YouTubeを始めてから1度もない。 生前に犯行の凶器であるナイフを拾ったところの動画でさえ、1回も再生されることはなかったのだ。 あの動画はみんなが見なければならなかった。俺にとって無実を証明する、この上ないアリバイだったのだが…… 悪運しかない俺にとって、そんな重要動画ですら誰にも見てもらえない。 俺はこうした理不尽な状況に慣れてしまい、落胆する気にもならなかった。 「行くか」 街に入ると、そこには多くの人々が行き交っていた。 しかし 「あれ? 街の人の表情が浮かない」 その表情は皆一様に暗く、どこか陰鬱(いんうつ)な雰囲気が(ただよ)っていた。
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