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「津川刑事。そんな大事ですか」
「捜査上の秘密だ。この建物へ隠し金庫があると情報を得たのでな」
「それなら。うん。分かる気がしますよ」
おてずっぽうのはったりだけれど、情報をまとめてもみたい。
津川は何かを感じ取ったらしい。
「ちょっと散歩しようか。つれは、あそこか」
紗月にも合図すると,部屋を出ていった。
庇の場所で佇む。雨は強弱を繰り返すけれど、雲が薄くなりつつある。
「大金のわりに、山野先生は落ち着いている」
泥棒が入ったということで、早く済ませたいらしい。
津川も金庫には別の何かがあると考えているようだ。
「脱税か、詐欺に関わるかもしれない。証拠になるモノの隠し場所を探していた」
それが隠し金庫と考えたのだろう。
紗月が実際にみてきた状況を伝える。
「確かに、南京錠のかけられた引き出しが備えられていた。勝代さんしか開けられないらしい」
それでも、一千万円も盗めば本望だろう、犯人は。
「開けられるだろ?」
津川が悪戯っぽく笑う。
「いいんですか。あの鍵なら、ちょいちょい、と」
その気になる紗月。それでも、詐欺にもなりかねないことを詳しく聞きたい。
「詐欺というより、賄賂の疑惑はあったな」
「先生は、そんなひとじゃないし」
紗月が不満を漏らす。山野が無料でも音楽を教えようとする性分なのはしっていた。
「経理。金の管理は奥さんだろ。一千万円が奥さんのへそくりというのも気になる」
秀哉は、奥さんの勝代が音楽オフィスを構えているのを不思議に思っていた。
そうだな、と津川がうなづく。
「経理は適正に行われていた。疑わしい書類もなかったが。うん。ここだな」
この隠し金庫に証拠があると確信したようだ。
秀哉は白い紙袋を思いだして、赤い車へ歩み寄る。
「警察官たちは見落としたはずだが、いかにも不自然だ」
「紐が結ばれている。この大きさ」
津川が何かに思いあたったようだ。紗月も、いまなら、と納得する。札束が入っているならうなづける。
「一千万円だ。なぜ?」
友梨佳が犯人なら、通報もぜずに逃げた方が良い。ばれてないという前提ではある。
「茶番か。しかしなぜ?」
山野と友梨佳の作戦か。それで、身元不明の犯人が盗んだことにして、早く捜査を打ち切らせたいのだろう。
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