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「奥さんのへそくりを若い女性へ上げる作戦か。手の込んだことを」
津川には理解できないらしい。ま、浮気なら民事事件。わざわざ刑事事件もどきにしたのはなぜか。
「山野先生も、家庭はうまく行ってなかったのだろう」
今回のバーベキュー大会で、なにか重要な発表も準備しているのかもしれない。
「あの、勝代さんでしょ。逆もあるよね」
紗月が勝代の噂話を教える。仕事の付き合いというが、異性関係に大らかな過去を持っていた。
「利用できる男は利用する女だったらしいけど。変われるかなー、人は」
「賄賂疑惑も、勝代さんは証拠不十分だったとか」
「弁護士がな。手ごわい人がついている」
津川は、弁護士に手を焼いていると話す。山野が音楽へ没頭する間に、うまく金儲けをしている勝代。そういうイメージが町では定着もしていた。
小雨になり、雲間から青空も見えた。
雨上がりは、どのような人間模様をみせてくれるのだろうか。
「まずは。この車のドアを開けさせよう」
津川が、紙袋の中身が一千万円か確かめたいようにいう。だけれど、盗まれたと騒いでいる現金だとしたら、素直に開けないだろう。
「おびき寄せる。ドライアイスがあっただろ」
秀哉の言葉に紗月は気づいたようだ。
「この車から煙が出ているように細工するわけだね。慌ててドアを開けるはず」
さっそくと、軽自動車の後部座席を開けて、クーラーボックスからドライアイスを取る。
もわもわと冷たい煙が広がる。赤い車の上へドライアイスを乗せた。するするガラスへ滑ってゆきながら煙が発生する。
「早く。来たよ」
紗月が急かす。コンクリートの建物から友梨佳が出てくるところだ。山野と何か親しく話していた。雨も小降りになり、なにか行動を起こすつもりなのか。
「隠れて。私が知らせる振りで近づくから」
秀哉と津川は車の後ろへ隠れた。
「友梨佳さんのかしら。車が大変。煙が」
駆け寄る紗月。
「なんでよ」
小走りに急ぐ友梨佳。すぐに助手席のドアへ近づく。かちっ、ロックを解除された音がドアから響く。
さっと前に出る紗月。
「煙、ドライアイス」
気づいた友梨佳。異変に気付いたか、かちっ、ロックをかけた。
「見せてよ」
紗月はいち早くドアを引いていた。抉じ開けるように開く。
「何の真似よ」
友梨佳が背後から覆い被さり、紗月を引っ張り出そうとする。
「確保」
秀哉は運転席側から入り込んでいた。白い袋を取り出す。後ろ向きに這い出た。
「君たちは」
山野が秀哉から白い袋を奪いとる。なにかやましいものが、入っているには違いない。
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