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津川刑事へ知らせようと、コンクリートの建物を出た。晴れた空に眩しい太陽。小鳥がどこかで鳴きだす。
「水も引いたか。あれは」
紗月が妙なものを見つけた。水の引いた舗道にワゴン車だ。走行中に水へ飲み込まれたのだろうか。
「勝代さんが乗ってたのと同じ型だが。どこかへ行く途中だったのか」
水の引いた舗道へ近ずく。
「昨日は出かけるといってたが。なんということだ。こんな姿になって」
山野が叫んで嘆く。
警察官たちがワゴン車のほうへ急ぐ。
「生きているぞ。大丈夫か」
ドアを開けにかかる警察官たち。
「あれっ。先生は」
紗月が気付く。山野と友梨佳がいない。
「関係者はかけつけるよな。逆に逃げる。いや」
なにか事情が分かるのかもしれない。成り行きを見守る秀哉。
ワゴン車のドアが開いた。中に溜まっていたらしい水が零れるけれど、姿を現した人物。
「よくも、やってくれたわね」
勝代だ。ずぶぬれで、髪を振り乱している。
「天蓋は開いていたか。それより」
「いた。逃げるみたい」
紗月が駐車場へ走る。山野と友梨佳が白い袋を持って、赤いセダンへ乗り込むところだ。意味不明だけれど、二人が勝代を嵌めたのは確かだ。
秀哉と紗月は軽自動車へ乗り込む。津川が後部座席へ滑り込んだ。
「応援を呼んだ。殺人未遂だよ。慎重にな」
「ちょっと、驚かします?」
紗月がロケット花火を準備する。
「はい、と言えるわけないだろ。きみたちは」
津川が困った顔。そうする間にも、水の上がった舗装路を走る。位置確認をして仲間へ知らせる津川。
赤いセダン車は右手の上り坂へ。
「崖崩れのおそれがあるな」
山野たちは丘から国道へ抜ける作戦らしいけれど、大雨のときは土が崩壊する危険のある坂道だ。
「下から様子をみましょう」
丘に沿った舗装路を進む。坂道は木立ちに見え隠れして続く。
松林が揺れて崩れる。ブレーキの軋む音が遠く響く。
「やっちゃったね。じゃじゃじゃじゃーん」
紗月がため息を吐く。
「恋と金は常識を忘れさせる。だから犯罪はなくならないんだろう」
津川もつらそうに頷く。
「あとは。あれですか。詐欺罪」
「とうぜん。被害者ぶっても、犯罪を犯したのにかわりはない」
勝代が待っているはずの屋敷へ戻っていく。
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