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事情聴取
「東の森で、イリィが狼の群れと戦闘してて、それに乱入した。群れの内訳は、成体が2匹、ガキが12、3匹ってくらいか。おそらく、成体は暴走体。で、ガキの方は暴走体の影響を受けて狂化してやがった」
ふと、“暴走体”っていう聞き覚えのない単語が聞こえた。たぶん群れ長の二匹のことだと思うんだけど、この呼称の意味はよくわからない。
「暴走体、ですか」
アル様は少し驚いた様子で、ロゥさんの顔を見てる。暴走体って単語がけっこう重要なものだったみたいで、さっきまでの感じは、どこかにいってしまってる。
「ああ。間違いない」
「そう、なのですね」
そして、アル様は考え込む。
「イリィさん」
少しの間を置いて、アル様が口を開く
「私たちは、ある魔術師を追って旅をしています。ロゥのいう狼は、その魔術師に関係するものになるのですが……イリィさんはどうして、夜の森にいたのですか?」
尋ねるアル様の目は、真っ直ぐにボクを見ていた。
夜の森は、危険な場所。
そんな場所に理由もなく、立ち入る人はいない。
だからたぶん、これは確認。ううん。何かを疑われているのかも。
「ボクは、急ぎのクエストがあったから……」
薬草採取のクエスト。ロゥさんのおかげで、クエストそのものは達成できた。
「急ぎの薬草集めだ。俺も報告に立ち会ったから裏は取れている。不自然なところはない。むしろイリィは、巻き込まれた被害者になる」
ロゥさんが、証言してくれる。
「巻き込まれた、ですか」
言葉を反芻し、アル様は考え込む。
「少し、困りましたね」
少しの間を置いて、アル様は悩ましそうな表情を見せた。
「昨日の一件で、イリィさんは件の魔術師に、私の関係者であると認識された可能性があります。あくまでも可能性なので、確定というわけではないのですが」
可能性という部分を強調して、アル様は続ける。
「イリィさんさえよければ、身の安全が確保できるまで、私たちと行動を共にしていただけませんか?」
突然の提案。
少し、戸惑いを覚える。
誰かと一緒に過ごすことなんて、そんなこと、考えて来なかったから……。
「もちろん、イリィさんが望まないのなら、無理にとは言いません」
でも、分かってる。
ボクは、そんなの、望めないから……。
「あの……」
「イリィは、迷惑か?」
言葉を遮るように、ロゥさんが問いかけてくる。
「えっと、迷惑じゃ、ないけど……」
ボクは、迷惑じゃないけど、でも、きっと……。
「なら、決まりだな」
ボクの言葉を断ち切るように、ロゥさんは言い切った。
「はぁ……。本当にロゥは、強引ですね」
アル様がため息を付き
「イリィさん。よろしくお願いします」
この一言で、流れが定まった。
正直、ついさっきまではボクがここにいる理由がよく分からなかった感じがあって、すっごく浮いてる気がしてたんだけど……ここに居ていいのかな、すこし、そう思えた。
それにしても、貴族以外の人間に対等な姿勢で接する事ができるなんて、本当にアル様って、変な貴族だと思う。
そして、アル様と対等に物を言い合うロゥさんも、身分にものすごくルーズっていうか、アバウトっていうか、やっぱり、すっごく変な人なんだと思う。
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