4人が本棚に入れています
本棚に追加
観光地巡り
この街の構造は少し変わっていて、前方後円形をしてる。簡単にいうと鍵穴型の街で、街の周辺一帯を地図に起こすと、平野のど真ん中に巨大な鍵穴が存在しているように見える。
後円部分は一般居住区と商店。前方部分には行政区画や特級居住区が立ち並んでいて、拠点の宿は比較的前方部分、でも、割と一般居住区寄りっていう微妙な位置に建ってる。
「で、どうしてまた、観光地のど真ん中にきたのさ?」
何がどうしてこうなったのか、ボクとロゥさんは有名な観光地の一つ、中央広場に来ていた。
中央広場っていうのは、後円部分の中心部にある広場で、大きな円形の緑地公園。
外周部分には様々な商店が並んでいて、ちょっとしたお祭り会場みたいな感じ。当然、人でにぎわっているわけで、その中で不振な出で立ちのロゥさんは、これでもかっていうくらいに目立ちまくってる。
「観光地自体に、用はない」
公園の外周を歩きながら、名物のジャンクフードを片手にロゥさんは言う。
観光地を回ったのはここで3カ所目。散々好奇の目で見られて、時々子供に指さされたりしたけど、ロゥさんは気にする様子もなくマイペースに散策してる。
というか、名物片手に言えるセリフじゃないと思う。絶対に。
「ただ、人がいた方が、不審者を探すのは楽なんだ」
手慣れた感じでカッコいいセリフなんだけど、いってる本人が不審者そのものだから、ちょっと説得力ないっていうね。
「なぁ、イリィ」
ロゥさんは足を止めて、真面目な口調でボクの名を呼ぶ。
ちょっとした緊張。周囲の気配を探ってみるけど、少なくとも、狂気じみたものは感じない。
「何?」
「一つ聞きたいんだが、あれ、ゴミ箱なのか?」
すごく真面目な雰囲気で公園の中に置かれたゴミ箱を指さし、ロゥさんは尋ねる。
この公園は至る所にゴミ箱が置かれてる。街の美化のためらしくて、ロゥさんが指さしてるそれは、普通のゴミ箱に見えるけど?
目の前で散歩中のおじいさんが、道端に落ちていた紙屑を放り込んでる。
「そのはずだけど、どうかした?」
「いや、ここは街中にゴミ箱があるんだな」
なんて言っていいのか、回答に困る。ボクにしてみれば常識なんだけど、ロゥさんにとっては、興味を引くようなものだったみたい。
「俺がいた場所はテロに使われるから危ないってんで、全部撤去されたんだよ。平和なんだな。ここは」
ジャンクフードの包み紙を丸めて放り込みながら、ロゥさんは言う。
ゴミ箱ひとつから平和を連想するなんて、ある意味すごいっていうか、なんていうか。
「ロゥさんて、紛争地帯の出身?」
そう考えると、その行動とか、強さの理由とか、いろいろと辻褄があう気もするんだけど。
「いや、出身は……カントーって所だ。別の大陸だな」
カントー? 聞き覚えのない地名かも。
「その、カントの騎士とか?」
「いや、騎士じゃねーよ。ただのパンピーだ」
パンピーっていうと、一般人の俗称なんだけど、普通のひとが使うような言葉じゃないと思う……。
「ロゥさんって、けっこう謎が多いよね?」
思ってることを口にしてみる。
「まぁな」
自覚はあるみたいで、あっさり肯定。
「ロゥって名前は、偽名?」
見てくれとか立ち振る舞いよりも、ロゥさんの名前が一番謎っていうのは言うまでもない事だけど。
「本名だと思うか?」
この返しは、暗に肯定してる。でも、これ以上は立ち入るなって意味になるわけで。
「納得」
これ以上の詮索はNGみたい。ほんと、どういう事情抱えてるんだか。この人は。
武装して出てきた割に、今のところ至って平和。官憲にも通報さてれはいないみたいで、職質に会うこともない。
「テロリストの気配、ないみたいだな」
ふと、ロゥさんが呟く。
「どこかで接触できると思ったんだが……。どうやら、違うのが釣れちまったみたいだ」
面倒くさそうに、ロゥさんは言う。
敵意とか殺気とかじゃないんだけど、図書館を出た直後から、誰かが明確な意志をもってボクたちを尾行してるっていうのは、薄々感じてた。やっぱり、ロゥさんもそれには気づいてたみたい。
「発破音が聞こえたら、右の路地に入るぞ。いいな」
ロゥさんが耳元で小さく囁く。直後、背後で小さな発破音が響いた。
最初のコメントを投稿しよう!