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黒と白
伐採キャンプの中央、血で汚れ、多数の狼の躯が転がる場所に、二つの人影があった。
一人は漆黒のローブを纏った男。
一人は純白のローブを纏った女。
この惨状を作り出した存在は、既にここを離れている。
他に動くものがない空間で、二人は戦いの痕跡を眺めていた。
「まだ、続けるのね」
虚空を写す巨大な狼の瞳を眺めながら、女は言う。
「まだ続けるさ」
男は答え、息絶えた狼の瞳を閉じる。
「無為だとは思わないの?」
女が問う。
「彼らにとって、無為ではなかった」
狼の躯を見つめたまま、男は答える。
「諍いを招いただけよ」
女は言う。
「彼らが望んだものだ」
男は答えた。
「そう」
平行線。二人の意が交わる事はない。
「また来るわ」
女はその言葉を残し、姿を消した。
「何度来ても、変わりはしない」
狼の躯を見つめたまま、男はそう呟いた。
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