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怪しい青年と貴い少女
正直、16にもなっておんぶされるっていうのは、ちょっと恥ずかしいっていうか、人に見られたくないわけで、すっごくやめてほしいんだけど……。
「どこにいくのさ?」
明け方の街の大通り。比較的人が少ない道を、おんぶされて運ばれてるっていう……。
普通だったら、思いっきり暴れてでも脱出したいシチュエーションなんだけど、事情が事情なだけに、暴れることもできないわけで……。
「拠点だ」
ロゥと名乗った剣士さんは、愛想のない返答をくれる。
特徴的な青髪のセイムレイヤー。瞳の色はライトグレー。眼光は少し鋭い感じ。
背丈はそれほど高いわけでもなく、体格も大きいわけじゃないけど、身の丈くらいある巨大な剣を悠々と振り回したりする、少し常識を外れている人間。
それがロゥという人だった。
拠点ってよく分からないんですけど……。
なんて、命の恩人に言えるわけもなくて、追加の説明もないみたいだから、黙ってることにした。
狼たちとの戦いを生き延びることができたのは、ロゥさんに助けられたから。
一触即発のあの瞬間、ボクと狼との間に割って入り、剛剣一閃。
一撃で大きな狼を斬り伏せ、あとは雑魚を蹴り飛ばし払いのけ、千切っては投げ千切っては投げて群れを壊滅させ、圧倒的な戦闘力で伐採キャンプを血の池地獄に変えてくれた怖い人です。この人は。
でも、動けなかったボクをおんぶして街まで搬送してくれたり、事情を聞いて、集めた薬草を孤児院に届けてくれたりして、怖くないっていうか、むしろ、人間としてはいい人みたい。
考えているうちに、ある建物の前に到着。
これは宿、なのかな?
南向きで小さな庭が付いた多層建築。透き通った窓がいくつも並び、格式高そうな入口が来客を選別している。
はっきり言えば、高貴な人の御用達感満載で、庶民が立ち入れるような雰囲気は皆無。
で、ロゥさんはボクを背負ったまま、ずかずかと中に入っていく。
エントランスを抜けて階段を上り、何の躊躇もなく三階へ。
ていうか、返り血まみれの不審者にしか見えない二人が中を闊歩してるのに、誰も止めないって大丈夫なのかな?
“関係者以外の立ち入りを禁ず”と書かれた豪華な扉をくぐり、最奥のエリアに進入。
今更だけど、正直、無茶苦茶びびってたりする。
こんなところに用がある人っていうのはそうそういないわけで、そういう人って、大別すると偉い人か犯罪者になるよね。
ロゥさんは偉い人には見えないから、当然犯罪者にカテゴライズされるわけで、一緒にいるボクも、カテゴリー的には犯罪者になっちゃうかな……。
「イリィって言ったな?」
ふと、名前を呼ばれる。
「これから先、見聞きしたことは口外禁止だ。いいな?」
首を縦に振る。
いいな? なんて言われても、ボクに拒否権はない。
というか、口外禁止って言ってくれるあたり、やっぱり何かあるんだよね。
ロゥさんは、一枚の扉の前で足を止めた。
扉には、“貴賓室”のプレート。
ロゥさんはドアノッカーを掴むと、慣れた手つきでテンポよく三回、扉を慣らした。
しばらくすると、扉が少しだけ開かれる。
「誰ですか?」
扉の隙間から聞こえた声は、少し警戒した感じの、険のある女の人の声だった。
「俺だ」
ロゥさんは、無愛想に答える。
「オレなんて人、知りませんよ」
少し間を置いて、冷たい声が返ってくる。
「ロゥだ」
何だか、投げやりな感じの答え。
「女の子に声をかけられて一晩帰ってこなかった、ロゥというどうしようもない人なら知っていますが、貴方は誰ですか?」
えと、なんなんだろ。すっごく、修羅場的な雰囲気な気がする……。
「夜のうちに戻れなくて悪かった。悪いが入れてくれ。怪我人を抱えている」
ロゥさんは、淡々と言葉を紡ぐ。
扉の中から、小さなため息が聞こえ
「少し、待っていてください」
ドアチェーンを外すために扉が閉じられ、再び開かれた。
扉の中にいたのは、一人の女の子だった。
たぶん、ボクより少し年上。
髪型はストレートショート。
髪色はよく手入れされているハニーブロンド。アクアマリンのような綺麗な空色の瞳には、強い意志が伺える。
服装は動きやすそうな軽装で、腰には銃床をのぞかせたホルスターをぶら下げ、かなり活動的な風体。
「怪我人というのは、その子ですか?」
「ああ。それほど重傷じゃないと思うが、見てやってくれ」
女の子はロゥさんの顔を見つめたまま、少し間をおいて
「事情、説明してくださいね」
それだけ言うと、踵を返して奥に入っていく。
ロゥさんも後に続き、背負われているボクも、貴賓室の中に招き入れられる事になった。
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