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どう声をかければいいか迷っていると、ふと、家主が立ち上がった。そして、助走をつけて、手に握っていた欠片を――川に投げた。
きれいな放物線を描いた後、ぽちゃん、と間抜けな音がして、欠片は着水する。数秒浮いていたが、水を吸って、すぐに沈んでいった。
「ああ、すっきりした」
振り返った顔は晴れ晴れとしていた。
家主は次々と、仮面の欠片を川に投げ始めた。促されて、私も一緒になって投げ飛ばす。最後のひとつが投げ入れられるまで、数分もかからなかった。
川原から出て、ふたりで道を歩き始める。
無言で歩いていると、家主の腹の虫が、盛大に鳴った。よく考えれば、昨日の夜から、酒とつまみだけしか口にしていない。私も空腹だった。
私たちはコンビニでおにぎりを買って、早朝のだれもいない公園でそれを食べた。そして私たちは別れ、始発の電車で私は帰宅した。
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