0人が本棚に入れています
本棚に追加
私は奴の家を襲撃した。奴はいなかった。
奴め、私が復讐者に名乗りを上げたのを知って、卑怯にも逃げたのだ。私の妻を殺しただけでなく、掟が認めた崇高な復讐からも逃げるとは。せめて受けて立ち、戦って散ればいいものを。一族の恥さらし!
私は奴の家を壊した。床下から吐息が聴こえる。粗末な板をはがすと、奴の娘がいた。娘に用はない。私の標的は、アチ。アチのみだ。
私は咆哮しながら家を出た。森の中から悲鳴が聞こえる。奴の声だ!
奴は情けないことに、私から逃げた後、森の中で獣に追われていた。この男は一体、どうして、お前は。
――アチ、アチよ。
我々は、その昔は仲の良い友人だった。
ともに笑い、ともに狩った。
たがいの妻とも、よく交流した。もちろん妻同士も。いつか妻が子を産んだら、奴の娘と仲良くできればいいなと、そんな話もした。
だというのに、なぜ、我々は、こうなっているのだ。
私は奴によって妻を失い、奴の凶行を恐れて奴の妻は逃亡した。
なぜ、なぜ、なぜ……。
仮面の内側で私は静かに泣いていた。
アチは怯えた瞳で私を見上げている。
夜が明けたとはいえ、薄暗い森の中。その上、この大きな仮面。私の表情は一切奴には見えないだろう。
「アチ!」
感情を振り捨てるように、私は吠えた。アチの顔が歪み、くしゃくしゃになる。
なんて顔をしているのだ、アチよ。
もう見たくない。私は大きな斧を、そこに叩きつけた。
最初のコメントを投稿しよう!