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私は走った。土地勘がなかったが、とにかくどこかへ行きたい。そうだ、川。川がいい。そう決めると、地図アプリで川を探し、そこに向かって走り出した。
仮面を持って走っていると、夢の中の男を思い出した。あの時も、こんなふうに走った。明るくなり始めた空の下、アチの家まで一直線に。夢の中とちがうのは、地面が整ったアスファルトであること、そして鍛えられたあの男の体とちがって、現代人の私の体はぜんぜんスピードが出ないことだ。
そうして河原にたどり着いたときには、私はすっかり息を切らし、口の中がからからになっていた。のどの奥からしょっぱい味がする。これほどの全力疾走は、大学に入ってからははじめてだった。
しかし、ここからが肝心だ。
私は仮面を、砂利だらけの地面に叩きつけた。
仮面は相変わらず、ひどい表情だった。怒っているし、泣いているし、笑っていた。あの男が、アチの前でそうだったように。
私はそれに勢いよく足を振り下ろし、踏みつけた。
一度目はたわんだだけだったが、二度、三度も繰り返すと、メキメキ、バキリと音がして、大きな亀裂が走った。力任せに踏み続けると、仮面はどんどん木片に変わっていった。
そうして破壊の限りをつくすと、どっと疲れが出て、私はその場に座り込んだ。ここまで全力で走って、それから仮面を踏みつけて。もうへとへとに疲れていた。
これからどうしよう、と途方に暮れていると、後ろから肩を叩かれた。
「ずいぶん景気よく壊してくれたね」
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