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「佐保…」
「姐さん…」
月の光の無い埃っぽい布団部屋に、折檻の末閉じ込められているウチにこっそり会いに来てくれた音次姐さん。
「何も食べてないんやろ?お客の残し物やけどおあがり。お酒も。温まるえ。」
「姐さん…」
膳の上には、姐さんが握ってくれたんか、少し歪な握り飯とたくあんと、銚子が一本。
それを泣きながら食べてると、姐さんがゆっくり口を開く。
「なあ、どうして小夏ちゃんを殴ったんか、まだ話してくれんの?あんたみたいな利発で優しい子ぉが、訳なく他人さん殴るなんて、ウチどおしても思えんのよ。」
「………」
言葉に詰まった。
図星を、ウチの本当の気持ちを見透かされた事に対して頭にきたなんて口にしたら、姐さんを困らせてまう。
それに、言うた所で、ウチみたいな冴えへん子供が、美丈夫な姐さんに適うはずもない。藤さんに相手にされる訳ない。
惨めになるだけや。
そやし、俯いて黙っていると、姐さんが優しくウチを抱き締めてくれる。
「…ごめんね。辛い思い背負わせて。そやしウチ、あの人…藤さんやないと嫌なんや。藤さんをウチだけのものにしたいんや。せやから、アンタのその想いを遂げさせる事は、出来へんねや。堪忍…」
「姐さん?」
呆けるウチから離れて笑う姐さんの目ぇには涙が光ってて、ああ…ウチの浅はかな恋心なんて、姐さんには端からお見通しやったんやと思うと、涙が溢れてきて、小さくごめんなさいと言ったら、頭を撫でられて、姐さんは静かに部屋を出て行った。
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