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水端2
朝、彼より先に目が覚めて。彼がまだ隣にいるかどうかを、肌に触れて確かめた。皮膚越しに伝わる熱に、心底安堵する。まじろぎもせず彼の寝顔を見つめ、思う。私の歩んできた人生は、まだ何も…始まってもいなかった。彼を抱いて、深く繋がって、生身の悦楽の奥、深層のみなもを泳いで。これまでの私の人生で、閉じたままだった場所を、彼はいともたやすく開いてみせた。ああ、今ならひとつ残らず分かる。全てが手に取るように。私が私に手枷を思い出させた意味も、彼女の真意も。彼女は紐解かれるのを待っていたのだ。私のように、紐解かれるのを。そもそも成り立つことは不可能だった。巻物の様にじっと待っている同士が、交わることは出来ない。…正攻法では手に入らない。彼女のように、真正面から突っ込んだのでは、彼はきっと。
初めて、生きたいと思った。
「繋子さん」
何だよ、と身じろぎをする
眠気まなこの彼の唇を奪う。
優しく身体をなぞって
流れるように指先を手首に這わす。
起こさぬように取り出した
枷を自然な所作で嵌めた。
金属がかっちりはまる音。
「な、に」
彼女は聡明だったのだろう。
私は、違った。
「…初恋って言ったら、信じますか」
彼を離さない。
どんなに稚拙であろうとも。
予想外の出来事に驚き
見開かれた彼の瞳を
見つめながら
今までの、どの日より
私の胸の奥は
満たされていた。
to be continued(渇求に続く)
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