渇求5

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渇求5

朝、眼が覚めると。彼の手が俺の手と触れ合っていて。無意識にそうなったであろうそれを、そのまんまにして。彼が目覚めるのを待った。ゆっくりと瞼が開いたのを見計らって、おはよう、と告げる。戸惑いの色が少し浮かぶ眼で、彼は俺を映す。遅れて、おはようございます、と返された。…俺にとって初めて、大きく行動を起こした昨夜。あの踏み込んだコミニュケーションが、吉と出るのか凶と出るのか。単純に…疑問でもあったのだ。どう反応するのか、と。若干の気まずさはあるものの、感触は悪くない。…こっちの方向で、脱出の機会探るしかねえか。あんま乗り気はしねえな。俺、もうそんなに若くねえし。不二子ちゃん役は無理があるよなあ。そんなことを思いつつ、着替えを済ませ、リビングに移動して、テーブルで朝食を待つ。それほど間を置かず出てきた朝食は、焼き鮭をメインとした和食だった。日を追うごとに、手際が良くなる。相手が相手なら、写真を撮ってSNSにのせるぐらいの出来になりつつある。いただきます、と言って食べ始めた。ほどなくして食べ終わると、温かいお茶を出してくれる。いつものように食器を片してくれた。明らかにいつもより口数が少ない彼と俺。彼はそもそも俺に極力視線を、向けないようにしているような気がする。対して俺は彼をよく見る。あの一夜が鮮明に呼び起こされて、身体が少しずつ熱くなりつつあった。あ~…これ、単純に溜まってんな。週に一、二回くらいは抜く生活を送っていたから、あれだけ空いたのは久々だった。その飢えた状態で抜き合ったことが、口火になったのだろう。くわえてこの男とのセックスが、新境地だったということも理由のひとつだ。セックスは好きだが、そこまで貪欲ではなかったはずなのに。 「なあ」 もはやこれが 「…はい」 作戦なのかも定かではない。 「イチジク…あるか」 果物のことを指しているのではないと さすがに解るだろう。 あります、と静かに言った彼は、朝から日暮れまで、眼を合わせないようにしていたのが、まるで嘘のように真っ直ぐ俺を射抜く。互いに会話せず、夕食を食べて。彼から例のものを受け取って、トイレで準備をする。寝室に戻って、ベッドで向かい合う。ためらいがちに、俺の頬に触れた手。それを受け入れるように、目を閉じ頬を手に擦りつける。少し震えた手のひらが、彼の心境を如実に物語っていた。やっぱやめるか、と聞く。…触れていいんですか、と聞き返されて、嫌なら準備なんかしねえよ、と返す。 「…繋子さん」 彼は何かをはらんだ声で、俺を呼んで、ゆっくりベッドに押し倒す。首筋から鎖骨、胸、腹で、唇を感じる。息を深く吐いて、悦楽の影をいなす。先ほど言葉を交わすまで、半信半疑だったらしい彼は、前もって俺の服を脱がせることはしなかった。今日は半着衣のまま、致すことになるのだろう。…まあ、足錠がなければ事足りるが。下さえ脱げば、どうとでもなるのだ…即物的な事を言えば。もっとも目の前の男は、簡単に終わらせる気はなさそうだが。嫌になるほど丁寧に、彼は触れていく。腹までたどり着いた指は、再び胸に戻って。突起を愛撫し始めた。久々の刺激に、背中が反る。絶妙な加減で歯を立てられて、声が出た。俺の反応を見つつ、口に含んだり、全体を揉んでつまんで、軽く引っ掻いたり、と多様な責めに息が上がる。やはり上手い。的確に弱いところをついてくる。それだけ、俺を注視しているということだ。覚えたての中坊みたいに、胸の刺激だけでバッキバキになった息子が、スラックスを押し上げている。その事実が恥ずかしくて、縋る手に力が入り、何故なのかを知られたくなくて、目を伏せた。それを知ってか知らずか、もう片方の手が身体のラインにそって、ゆっくりと下半身にたどり着く。スエットと下着を下げて、遠慮がちに性器に触れられ、思わず腰を引く。 「ァ…は…ッん …お まえっ も」 引ける腰を自ら擦りつけて、扱き合うことを提案するが、彼は首を縦には振らない。乳首への刺激を続けながら、一方的に扱かれる。呆気なく登りつめて、果てた。息を整えている間に、スエットと下着を取りさられ、あらかじめベッドボードに用意していたローションを手に取り、手のひらであたためてから、臀部に塗り込まれる。ゆっくりとヒダをなぞられ、慎重に中指を挿入される。誰かが体内にいる、という感覚を久々に味わう。シーツを掴んで、快楽を逃がす。様子を見られながら、なじんできた頃合で、指を増やされる。4本目が入り、いよいよ前が完全に復活したところで、ひと思いにずるりと全ての指を抜き去った。熱を持て余した眼で、射抜かれる。その眼を真っ直ぐ見据えながら 「…上に乗りてえ」 そう、告げて。鎖を引っ張り音を立て、手錠が邪魔だ、と態度で示す。彼は俺の瞳の奥を探っているようだった。完全に動きを止めて、彼はなおも真意を探る。そんな彼に愚直なほど、ひたすら眼で訴え続ける。無理か、と思いはじめた頃、彼は眼を伏せ、何かを孕んだ瞳で、再度俺を見つめ俺の言葉を静かに肯定した。…ここしか、ないだろう。全ての拘束が解かれて、無防備になる瞬間は。やけに鮮明に、手錠が解かれる金属の擦れる音が、鼓膜に響く。外れた手錠を彼から奪い取って、瞬発の二文字を忘れかけていた身体を、全力で動かす。先刻宣言した通りに、彼の上に乗っかった。手錠のギザギザした切っ先の部分を、彼の喉元に当てる。彼は深く息をついて、俺の名前を呼んだ。 「繋子さん」 「何だよ…一生」 分かってた…だろ。 「ずっとは続けてらんねえって」 彼は視線を交えたまま、肯定も否定もしない。…形勢が逆転することを分かっていたのは明らかだった。知っていて、手錠を解いたのだ。彼は悠々と口を開く。また時間が巻き戻ったとしても…私は貴方を捕らえる。貴方がいなければ、私は此処に存在していない。そう言い切ってすぐ、突きつけた手錠の切っ先を、みずからグッと手前に引く。即座に力配分を変えて、彼とは反対に力を入れて食い込むのを阻止する。…何故ですか、と問われる。貴方はこの場所を去りたいのでしょう?なら、全てを終わらせて下さい。なかったことにすればいい。饒舌にそう言ってのける彼に、心臓が大きく動く。まるで聞き分けのない子供のようだ。世の中に出て、社会人として生きてきて、広いこの世でそれでも、此処にしか自分の居場所はないと言う。本気で……俺に命を賭けているのか。その事実が真摯に胸を突き刺さって、俺を突き動かした。 手錠を投げ捨てて、おもむくままに目の前の唇を奪う。驚いた顔。構わずに口づけ続ければ、ようやっと脳で理解したかのように、激しく唇を奪い返された。他は…どうでもいい。いまこの時間だけに全てを傾ける。そう決めれば、身体がよりいっそう解放された気がした。急速に、実直に、目の前の男は俺の身体を求める。先ほどまでの丁寧さは微塵も感じられない。その代わりに溢れんばかりの好意が、肌を眼を息づかいを通して流れ込んでくる。まるで洪水だ。流されのみ込まれるままに、彼の身体をまさぐり返していちもつを探り当てた。自分の後孔に押し当てると、ゆっくりと腰を落とす。焼けつくように熱い肉の棒が、圧倒的な質量で内壁を押し広げて入ってくる。喉がひくつくのを、止められない。目の前の男の名前を呼べば、中のモノがより膨張した。半分ほど引き抜いて、また押し込む。それを繰り返しながら、自分のモノに手を伸ばそうとすれば、やんわり阻止された。そのまま両手の指を絡め取られて、がっちり手を握られる。繋がれた両の手のせいで、自身を扱くことが出来ない。 「ふ、ン…ァ はっ おいッ」 不満を含んだ声を上げるが、いっこうに手を離す気配がない。大人しくされるがままだった彼は、自ら腰をつかい始める。器用に的確に、前立腺を狙って突く。延々と続くように思う執拗な弱点への刺激で、いまだかつてないほど昂った自身。微かに放出欲がチラつき、驚く。じりじりと登ってゆく感覚に、全身が総毛立つ。間違えようがない。これは、射精欲だ。一夜限りの関係を色んな人間と持ってきたが、今まで直接的な刺激なしで、達したことはない。これから先は、行ったことのない未知の場所だ。彼の手を握る手に、より強く力がこもる。 「んッふァ っ…怖、ぇッ」 思わず本音がこぼれ落ちる。知らないものを知る時は、いつだって怖い。大人だってそれは…変わらない。誤魔化しようのない俺の言葉を聞いて、中で男根が脈打ったのが分かる。目の前の綺麗な顔が歪む。ああ…コイツも限界なのか。互いに目の前の頂き向かって、走り抜けることしか考えられなくなる。相手の息遣いと自分の息遣いが、合わさって鼓膜に響く。一際激しく突かれて、大くて鋭い悦楽が全身に駆け巡った。刹那、グッと力む。たいした声も出ないままに、触れていない性器から精液を放つ。 「…、ッーー …っ ぁ」 長く長く続く快楽の中、腹の中で、彼のモノも弾けたことを知る。解けていくかのように、身体から力が抜けて、彼の上に倒れ込む。息を整える間もなく、唇を奪われる。唇が離れ、ずるりとひと思いに性器を抜いたかと思えば、組み敷かれてすぐさま挿入された。余韻の残る後孔を絶え間なく突かれて、口から勝手に声が出る。 「ぁ、ン っ…ふ、ぅ ァ あ…」 「…はッ…つ、なしっさ、」 鐘でもつくかのように、ひと突きひと突きが重い。腹の中に出した精液を、塗り込められて。血が巡るかのごとく、身体中に彼が染み渡っていくような、錯覚を起こす。変えられてしまったら、もう二度と戻れないことを知っていて。手加減なしで、全てを奪いに来る男に、打ち震えた。まだ覚えたばかりの馴染まない感覚を、引きずり出される。 「ン ぁ…っ イ、ヤ だッ…」 また、またケツだけで。 「…ふ、ぅ…は、イッてくださ、いッ」 意思とは関係なく、足が突っ張る。達している最中も、彼の腰は止まらない。悦楽の渦に巻き込まれたまま、ただ喉を身体を震わせる。もうどこを触られても、快感でしかない。全身が茹だるように熱くて、とけてなくなってしまうのではないか、なかば本気でそう思った。腹の中で二度目の精が放たれ、味わうように肉壁が動く。まるで乞うているみたいだ、と思う。ゆっくり何度か抜き差しをした後、彼は性器を引き抜いた。俺が少し落ち着いたのを見計らって、四つん這いで尻を少し下げた体勢にさせた。どうやら中のモノをかき出す気らしい。腿を優しく撫でさすられて、濡れそぼった後孔がヒクつく。中指がゆっくり挿入されて、しばらくしてから二本目が入ってきて、奥に滞留している精液を外に出そうと活発に動き出す。精液が太腿を伝い落ちてゆく感覚に、あわ立つ。全てを出し切った頃には、性器はガチガチに勃起していて、くわえたくて仕方がないといった具合に、下の口がぎゅうぎゅうと彼の指を締めつける。新たな快楽を貪欲に享受しているのだ。急速に羞恥心が刺激され、顔が熱くなる。そんな俺を余すことなく見つめて、自分のモノをヒダに擦り付ける。 「ふン ァ まっ、…ーッ ぁ」 「ハァッ つな、し さっ」 狙いを定め、ぐぐっと中に入ってくる。再び圧迫される感覚と、熱。浮かされるままに、シーツをわし掴む。力を入れれば入れるほど、中を進んでいくモノの感触が、ダイレクトに伝わる。全部をおさめて間もなく、揺さぶられる。散々バックで突かれた後、ひっくり返されて対面でゆっくり中をかき回された。つぶさに反応をすくい取って、より感じるほうを責める姿勢は。もはや尊敬に値する。熱視線を全身に向けられ、されるがまま唇を合わせる。何度も何度も、角度を変えて。確かめるように、想いを注ぐ。これだけ熱烈な口づけは初めてかもしれない。背中に手を回して、それに応える。目の前の男の髪をかき混ぜて、舌を絡め返して。全身でぶつかる。身体が限界を訴えている。体力的にも、これが最後だろう。浮かされたように、何度も俺の名前を呼んで、ラストスパートをかける。奥の奥を暴かれて、思わず吼えた。両足を絡めて、衝撃を余すことなく受け止め、解放にそなえる。いっそう激しくなった腰が、最奥を強く強く突いて、そのままぱたりと止まった。遅れて種をつけるかのように、グッグッとさらに数回、ナカを突かれ喉がヒクつく。あと一手足りず、生煮えで立ちんぼの俺の性器に気がついた彼は、ひと思いに自身を抜き去った後、いちもつに触れかけて唐突に止めた。期待して落胆した様子が滲む俺の表情を見て、熱に浮かされた顔で眼を細め、彼は問うた。 「…すぐ、イきたいですか」 それとも 「ちゃんと、イきたい…ですか」 あと一打で、達することが出来る。けれどそれでいいのか、と問うている。今すぐにでも出したい。けれどそれを上回って、時間をかけた先の強大な悦楽への欲求に…あらがえなかった。ちゃんと、イかせてくれ。そう答えれば、彼は口角を上げてそれを了承した。少し落ち着くまで待って先刻そうしたように、四つん這いで尻を少し下げた体勢で精液を掻き出してから、前立腺から少しずれた周辺を重点的に擦られる。上擦って仕方なくなった頃合いで、仰向けで足を開いた状態にされ、引き続きナカを擦りつつ、やわやわと玉を揉みこみながら、会陰部を愛撫される。まだ前立腺や陰茎に触れられてもいないのに、こんなにも気持ちがいい。煮詰められるとは、こんな感じだろうか。どうしようもなく焦れて焦れて、ついに彼を呼んだ刹那、ぐりっと前立腺を指でひと突きされた。 「ア…!ひっン はッ ぁ…」 イッたかと思った。それくらい鋭い快感だった。それを皮切りに、変則的な調子で前立腺を責められ、裏筋から会陰部までを指の腹で往復してなぞられる。心臓が尋常ではないほど、脈拍を刻んでいて。達した直後には、そのまま息が止まってしまうのではないか、と思った。直接的な刺激で山頂が見えてきた頃、唐突に熱い粘膜が性器をおおった。咥えられている、と気づいたのもつかの間、息を飲むほど容赦なく前立腺を揉みくちゃにされる。自分でも驚くほど大きな声が、口からとめどなく出てしまう。咥えたまま根元を扱き上げられながら、トドメの一突きを前立腺にくらわされて、目の前が完全に白み切った。 ああ、イク。 息が、出来ない。 「…ッーーーー ぁ 」 やべえ、俺。トんじまう。 白んだ先で、暗転。しばらくの間、俺は意識を手放した。
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