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渇求6
次に目覚めた時には、シーツや服が新しいものになっていて、心配そうに一生が、ベッドの横で俺を覗き込んでいた。なんだその顔、と発した声は驚くほど掠れていて。年甲斐もなく随分喘いだのだと分かった。すみません、と謝る男に、同意の上だったろ。誘ったの、俺だし。と返す。すみません、ともう一度謝る彼に、良いって、と返し、ちゃんとイクどころか、トんじまうほどヨカったよ。クスリもキメてねーのに、この歳になってシラフであんなセックス、中々経験出来ないぜ。お前、上手いよ。と告げると、彼は初めて見るような赤い顔をした。恥ずかしいのか。めずらしい。
「照れてんの?」
「混乱…しています。あんなに理性を飛ばしたことは、初めてで。」
あれだけ無体を働いてしまったのに
「思い返すとまた昂ってしまいそうで」
「…童貞みてーな言い草だな。」
好きな人間との、セックス。そりゃ、理性も飛ぶだろうよ。そんなふうに思っておいて、自分で羞恥にかられる。声にしていないとはいえ、自分が好かれていることを断言するのは、どうにも気恥ずかしい。ばつが悪くて、頭を掻こうとして、気がついた。手錠をしていない…足錠も。拘束に関する一切の物が見当たらない。辺りを見渡す俺に、もう拘束はしません、と察したように告げた。
「…これから、どうするのか。繋子さんに委ねようと思いました。」
貴方が私を訴えるのであれば
私は罪を償います。
「貴方を見つけて、どうしても手放したくなかった。もしも時間が戻ったとしてもきっと同じように、罪を犯して私は貴方の自由を奪って、身勝手に拘束をするでしょう。先刻貴方に言った通り、それは変わりません。」
けれど貴方は
更生の見込みのない私を
殺さなかった。
「それは貴方や貴方の周囲の人間に当然迷惑をかける、という考えからそうしたのかもしれませんが」
「それはちげーな。そんな理性的なこと考えられてたらヤッてねーだろ。」
つーかお前、そもそも
俺の好みなんだよな。
だからワンナイト圏内に
入ったわけだし。
「……一回ぽっきり後腐れない関係が俺のマイルール。」
慣れたヤツとしか
遊んでこなかったしさ。
「つまりお前の監禁を誘発したのは、俺でもあるわけだ。」
だからさ、一生。
「訴える気なんてさらさらないんだよ。かと言ってお前の想いに今すぐ応えられるかっつったらむずかしい。」
そこで、提案なんだが
「まずは関係築くとこからやってみねえか?」
ひと息にそう言えば、彼はぽかんとした顔をした。予想していない反応だったようだ。俺だって予想外だ。けど、これは誤魔化しようがない。気絶させてるうちに、脱出するとか。他にも方法はあったはずなのに、やらなかった。それはもう、言い訳出来ない。脈がある。彼に言った通り、今すぐ付き合うっていうのは、難しいが。相手をもっと知った上で、気持ちを整理して。そこから、結論を出そうと思った。
「貴方がいいなら…それで。」
かくして監禁生活は、唐突にかつ穏便に終わった。新たな関係の始まりをたずさえて。それから程なくして慣れたようにふたりベッドで眠り、当たり前のように朝飯を食べて、来た時の服を身につけ、私物を持つ。電源を切ったままのスマホをつければ、引くほどの奥世からの着信履歴。探偵の履歴もそこそこ。一生と連絡先を交換して、夜に必ず連絡をすることを約束し、彼の家を後にした。
まずは、探偵に連絡をして。その次は、直接…店に顔を出すか。電話よりそっちのほうが、手っ取り早い。久方ぶりの日光を直に浴びながら、そうやって思案しつつ、俺の日常に向かってゆっくり歩いて行った。
end
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