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「だから、最近眠れてないとか、食事が取れてないとか……本当に忙しいのか?」
「急に何?」
ベストを脱ぎ、サスペンダーを外してすっかり身軽になったレオナルドが振り返った。ロレンツォは寝室には入らず、ドア枠に凭れ掛かり腕を組んでその様子をじっと見ていた。手にはレオナルドのジャケットがある。
恥ずかしいわけではないが、こうも見つめられると着替えにくい。ロレンツォだって男のストリップを観る趣味はないはずだ。レオナルドは女性がするように胸を手で覆い、無表情のまま「えっち」と言った。
ロレンツォは訳が分からないという顔をして、大きなため息を吐いた。
「人が心配してやってんのに、お前は……」
その言葉にレオナルドは目を丸くした。
「……心配してんの、俺のコト?」
「耳が聞こえてないのか?それともボケてんのか?」
手にしていたジャケットをロレンツォが投げ、掴んだレオナルドはクローゼットの扉を開き、空いてるハンガーに吊り下げた。いつの間にか部屋に入ってきていたロレンツォがトラウザーズも脱げと顎で示唆すると、カジュアルスーツを選び始める。レオナルドは何も言わずトラウザーズ、そしてカフスに填めてあった飾りボタンを取った。
「なんか意外」
選んでもらったスーツを着ながらレオナルドが言うと、ロレンツォが片眉を上げた。
「俺は幹部だぞ?ボスを心配して何が悪い」
言われても尚、レオナルドはそんなものだろうかと腑に落ちていなかった。それよりも、些細なことで気を留めてしまうということに申し訳ないという気持ちでいっぱいになる。自分はまだ頼りなく未熟で、枷になっているのだ、と。
「……」
レオナルドは軽く頭を振った。
ネガティブになっても仕方がない。そんなことで一々燻っていたらキリがないし、何も解決しない。それに、そんなことを考えているようじゃ、いつまで経っても立派なカポになれないだろう。
今は落ち込むよりも、心配されて当たり前、程度に思える図々しさを持たなくては。
レオナルドは顔を上げて、ロレンツォの肩に腕を回して大げさに振舞った。
「ローレンちゃんがこんなに優しい子に育って、パーパは感激ヨ!」
「気持ち悪いこと言うな!大体俺はお前より、四、つ、も、歳、上、だ!」
年齢を殊更強調し、ロレンツォが歯を見せて苦々しい表情になり、腕を振りほどいて数歩後ずさる。あっさりと離れたレオナルドは、その表情に笑いながら寝室を出た。
「ハイハイ。ま、とにかくありがとさん」
執務机の前で立ち止まり、書類の束から迷いなく何枚か引き抜きながらレオナルドは言った。
「そんなに心配するようなことじゃないから、安心しなよ」
「随分はっきり言い切るんだな。心当たりがあるのか?」
「さあね」
およそ数十枚の紙の角を揃えると、遅れて執務室に戻ってきたロレンツォに差し出した。ロレンツォが受け取ると、レオナルドは何も言わず椅子に座ってペンを取り、何事も無かったかのように仕事を始めた。
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