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少しの愚痴や文句、そしてロレンツォの耳にタコが出来そうなウンチクや、レオナルドの出禁になっている違法カジノの話。どちらから切り出さずとも続く雑談を楽しんでいる間に、いつの間にかテーブルには空の皿しか乗っていなかった。
ビールのおかわりも飲み干したレオナルドは、ふうと息を吐いて胃のあたりを抑える。すっかり満腹になった様子を見て、「一服でもするか?」とロレンツォが提案するが、レオナルドは首を小さく横に振り、そしてオーダーを取るウェイトレスのほうを見る。
先に会計か、と紙巻に火をつけるのを止めたロレンツォだったが、その予想は外れだ。
「ドルチェは?」
一瞬、ロレンツォは自分が何を聞かれているか分からなかった。
「ドルチェ?まさかまだ食うのか!?」
あの三人前はあった料理をほぼ一人で平らげたうえに、まだ食おうというのだ。レオナルドはなぜそんな反応を返されたのか分からずキョトンとしている。きっと付き合いの長い連中は慣れてしまって、何か言うのもやめたのだろう。ロレンツォはエスプレッソかコーヒーとだけ言って、今度こそ煙草に火をつけた。
市販のバニラアイスを盛り付けただけのドルチェは、レオナルドを喜ばせるには充分で、ロレンツォが一本、紙巻を灰にする間に半分は減っていた。
「忘れんなよ」
唐突にそう言ったレオナルドが、スプーンで乳白色の塊を掬って差し出す。
「毎晩飯に連れてくって話」
そんな話はしてない気がするが、ここで頷かない理由などロレンツォには無かった。
毎晩二人で晩飯を楽しめるなら、仕事をサボろうが、メリダがキレようが、ロレンツォにとってはどうということはない。
約束とでも言うような匙の上のバニラアイスに、ロレンツォは口を開けた。頼んだエスプレッソが思いの外濃かったせいか、それとも糖分に飢えていたのか、舌を冷やすアイスクリームは妙に甘かった。
「期待はするな」
素っ気ない言葉が少し弾んでいるのに気がついたレオナルドが、何も言わずに小さく笑った。
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