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時は戻り役員会会場では、定刻になったというのに姿を表さないカポに役員たちが文句を言い始めていた。
「おい、あの若造は来ていないのか」
「ふん……どうでもいい。いるだけで何もしないじゃないか」
「生意気だが顔は綺麗だぞ?」
「男妾上がりが。ようやくカポの座から引く気になったか」
嘲笑と侮辱の矛先は相変わらずレオナルドに向けられる。本人がここにいないにも関わらずぺちゃくちゃと宣う様は、幹部にとっては屈辱的だ。メリダの隣に並び立つカルリトが険しい顔を隠しもせず舌打ちをした。
「……酷いな」
「レオナルドには日常だよ」
カルリトが非難するような目でメリダを見る。それには「こんな状態を何故、筆頭幹部のお前が放っておいているんだ!?」という感情が込められていた。それには何も答えず、メリダは部屋で愚痴愚痴としている老いた役員たちに向き直った。
「皆様、本日も御足労いただきましてありがとうございます」
突然の朗々とした声に会場は一瞬静まり返るが、すぐに一番近い席に座っていた役員が口を開く。
「今日はまともな役員会になるんだろうな」
その役員はまさしくあのジハドだ。
「……まともだと?」
カルリトの瞼が一度痙攣する。その口から怒声と罵声が零れないうちに、メリダは続けた。
「さっそく、今期の活動報告から始めたいところなのですが、最初に悪いお知らせがあります」
予想していなかった言葉に役員だけでなくカルリトも表情を曇らせるが、唯一彼だけは何か納得するところがあったのか、一度ふんと鼻を鳴らすといつもの顰めっ面に戻った。
どういうことか分からずにまだ役員たちは次の言葉を待つ。その浅黒く傲慢な人格が滲み出ている面々を一通り見渡してから、咳払いをしてメリダははっきりと告げた。
「どうやら我々の中に、あろうことか警察へ情報を漏らしている裏切り者がいると」
さらに続ける。
「他にも組織への献上金の横領、堅気への恐喝行為。……中にはカポを陥れようと画策するならず者までいる」
後半の言葉は声を低くして、マフィアの超えてはいけない一線を破った奴を脅す。カポを陥れるということは、即ち裏切り、即ち死。何人かの顔がさっと青くなった。
「カポからの手紙です。ここに裏切り者の名前が書いてあると仰っていました。今日カポがここに来なかったのは、そんなゲス以下の裏切り者共の顔を見たくなかったからです」
顔を青くした数人からさらに血の気が引いていく。中には口を閉じることを忘れたのか、間抜けな顔のまま声にならない絶望の声をあげていた。その中には、あの下品な老人のジハドも含まれている。
メリダは冷静なまま淡々と、しかし裏切り者たちを追い詰めるように冷たい声で言った。
「我々は家族。一生揺るがない信頼と恐怖で繋がれている。それを裏切ったならどうなるか、お前たちが一番分かっているはずだ。そうだろう?」
同意するものは一人もいない。だがそれはメリダに威圧されて首を縦に振ることやオフコースと口を開くことが出来なかったからだ。
そんなメリダが目の前で冷や汗を流す役員に目を止める。気づいた役員は「ヒッ」と小さな裏返った声を上げ、メリダは口元だけで穏やかな笑みを浮かべた。
「やっと"まともな"会議が開けそうですね、ジハドさん?」
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