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いくら推しであろうとも……むしろ、推しだからこそ無理だと断ったはずなのに……
俺は目の前の光景に目を疑った。
なぜか、工房のイスに腰掛けて眠っているアオ。
少し長めの黒髪と長い手足。
大きな体がその狭い工房のイスに無理矢理押し込められている様を見て言葉にもならない。
いつもは落ち着くバラの香りで満たされたこの空間も一気にワタワタと落ち着かない場所になってしまった。
推しが……目の前に居る。
しかも、なぜかぐっすりと眠っている。
……これはどうしたら?
「……あのー」
呼んでみても反応がない。
他人が近くに居るのは落ち着かないが、アオだと思うと……嬉しいけど余計に心臓がうるさい。
落ち着かないどころか、脈がおかしくなって死ぬ気もする。
でも、離れたくない気もするから困ったものだ。
「……ポプリがなくなりそうだから……詰めなきゃだし」
無理矢理現実を呟いて瓶と袋に入った花びらを取り出す。
乾燥させてオイルを垂らして馴染ませてあったモノは香りがしっかりしていてホッとする。
ピンセットを手に取ってピンク系、赤系、黄色系の瓶を三本ずつ作ったところで一度手を止めた。
唯一婆ちゃんと合わなかったのがこの見た目のこだわり。
婆ちゃんは花びらをバラバラにして乾燥させ、色も混ぜてとにかく詰めてあった。
俺は見た目もこだわりたくて、咲きかけをそのまま乾燥させたり、花びらで作ったり……とにかく色や種類で分けて、瓶に入れるのもバランスを大事にしたい。
その分手間はかかるが満足していた。
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