推しの声

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“R・B”は元々ゲーム配信をしている幼なじみの男二人組だった。  元気にしゃべり倒してゲームはそこそこのアカと、無口だけどゲームはめちゃくちゃ上手いアオ。  俺はゲームに興味はなかったが、『めっちゃイケボ!!』と騒いでいるコメントを発見して辿り着き、初めてアオが発した 『……ミスった』  この声にやられた。  ここだけ何度も繰り返し聞いたほど。  それは俺だけではなかったようで、アオにしゃべって欲しいってコメントは増え、先月初めて配信されたのがあの二人の雑談。  だが、それでもアオはほとんど言葉を発しなかった。  それから何回か雑談配信もあったがアオがしゃべったのは片手で足りるほど。  その少ない中でも俺にとってはヤバいくらいハマったのがあの初回のため息。  俺はその貴重な声に耳を澄ませて日々の活力にしている。  二人ともまだ大学生らしいが、顔出しもしていない二人の想像は俺の中でどんどん膨らんでいた。 『……なら終われよ』  呆れたような声にキュンとする。 「……マジでヤバいよなぁ……」  ヘッドホンを外して、ベッドの上で脱力した。  実家の小さなバラ農園の手伝いをして、結婚をして家を出た姉と両親と四人で切り盛りする完全な家族経営。  俺自身、両親と実家で暮らしていて女との出会いどころか家族以外の人と会うこともほとんどない。  仕事をして、たまにある二人の配信を楽しみにして眠る日々。 「おやすみ」  スッとスマホを撫でて、それだけで返事をしないアオを感じた気がして目を閉じた。
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